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「ふたつの祖国」
【その他 推理小説】

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前編U-6

「──しかし、手続き上は問題無いから、手渡したと生活安全係々長は言うんだ」

 何かおかしい、何か合点がいかない──鶴岡は、この案件を調べ尽くしたいと思った。が、しかし、島崎がそれを認め無い。

「それは他の者に当たらせる。それより、お前は交通局に出向いて、Nシステムから該当車両の特定を頼む」
「わ、分かりました……」

 確かに島崎の言う通り、優先順位は証言の裏付けが先である。鶴岡は、傾きかけた気持ちを無理矢理引き戻した。

「出掛けて来ます!」

 交通局へと向かう鶴岡。その後姿を追う岡田を、再び島崎が止めた。

「君は、私と一緒に来てくれ。今から届け出人の下に出向き、行政解剖の了承を得らねばならない」

 幸いにも、届け出人の住所は署から五十キロ程南の場所だ。
 二人は足早に特殊車両であるクラウンに乗り込み、娘の下を目指した。
 犇(ひし)めき合うような街の灯りは徐々に薄れ、やがて疎らに道を照らすだけとなった。

「どうだ?鶴岡は」

 走り出してから三十分程経った頃、それまで黙っていた島崎が突然、岡田に話し掛けた。

「どうと言われましても……」

 初日早々、班長である佐野に対する厳しい扱いを見た岡田は、正直、島崎に対して蟠りを抱いていた。
 しかし、一応チームのリーダーである理由から仕事上の会話はするが、それ以外については御免だと言うのが本音であり、島崎もそう望んでいるからこそ、自分逹とは事務的な会話しかしないのだろうと思っていた。
 ところが、今の島崎は明らかに普段の口調とは違う。その事が岡田を戸惑わせる。

「君の足手纏いになっていないか?」

 問い掛けた口ぶりは、弟の出来に気を揉む兄貴の様相だ。
 そう思えた瞬間、岡田の中で島崎に対する印象が少しだけ変わった。

「そうですね……一本気過ぎる部分も有りますが、何より、吸収しようとする気持ちは教え甲斐が有ります」

 素直に出た、岡田の気持ちだった。

「そう言って貰えると有難い。彼奴も、君と組んだ事を喜んでいるようだ」
「新しいワインは古い革袋に詰めろ──ですか?」
「そうだな」

 次の瞬間、小さな笑い声が車内に挙がった。
 二人を乗せたクラウンは、街灯だけとなった道路を、南へと速度を上げた。




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