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「ふたつの祖国」
【その他 推理小説】

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前編U-29

 捜査開始十ニ日目も夕方を迎えたが、これと言った進展は見られ無かった。
 鶴岡と岡田が担当する該当トラックの特定は、先ず、大手運送会社から始められた。
 作業としては、該当トラックの当該時間帯における、乗務員と運行路の確認なのだが、ニ件共、問題は見られ無かった。
 特に運行路についてはGPS搭載車である上、本社サーバーに記録されており、遺棄現場を通過したと言う記録は無かったのだ。
 残る一台については、協力要請したトラック協会からの連絡待ちである。

 他に、佐野と善波、児嶋が回る遺体捜索。斉藤に藤沢、中島らが当たっている殺害現場特定は、何れも徒労に終わっていた。

「何か……」

 全員が一室の片隅で、疲労感の漂う面を突き合わせる中、鶴岡が不満を漏らした。

「……昨日は一歩前進と思ったのに、また今日はニ歩後退した様な……」

 大袈裟なため息を吐く態度を見て、岡田が「元気出しなさい!」と、檄を飛ばした。

「──まだ始まって十ニ日じゃない。私達なんて、何年も掛けて内偵調査から立件する事も有るのよ」
「解ってますよ。それ位……」

 岡田の正論に言い返せないのか、鶴岡は拗ねた様な態度になった。
 今朝の件で、完全に頭が上がらないようだ。

 ──あんたは、あんな些細な事に拘って、自分を貶めたいの?

 捜査へ向かう途中、岡田はそう鶴岡に問うた。

「この間の科捜研からの報告、覚えてる?」
「ええ、まあ……」

 覚えるも何も、報告書を朗読したのは鶴岡である。

「あの中で島崎さんは、建設会社等の捜索除外を指示したでしょう」
「そうでしたっけ?」
「もう!……あの日の昼間、貴方の先輩の善波さん逹は、建設会社等の登記簿を法務局まで確認に行ったの。それが、あの指示で全部無駄になったの」

 岡田に言われて鶴岡は思い出した。あの指示された瞬間、善波の表情が、僅かに強張ったのを見たのだ。

「──でも、善波さんは指示の理由を訊ねるだけで、直ぐに気持ちを切り替えた。
 彼にとって、こんな事は日常茶飯事だからよ」

 鶴岡は何も言えなくなった。 善波や藤沢が理不尽さに見舞われてる姿を見て、彼は刑事の仕事を“理解したつもり”になっていたが、それが自分に降り掛かって来た時、初めてどういう物なのかを知った。
 しかも、我を通し過ぎて、危うく全てを失い掛けたのを岡田が止めてくれた。

「──早く一皮剥けて、島崎さんを安心させなさい」
「解ってますよ、煩いなあ……」

 厳しい岡田であったが、彼女も鶴岡同様、進展の乏しさに、時折、気力が萎える自分を感じていた。
 そしておそらく、仲間逹も同じだろうと。




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