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贅の終焉
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唐突-10

「素敵です。女性の下着とはオシャレなものなのですね。」菜穂子は上下が揃いになっている薄紫のレース素材の下着をつけていた。
藤沢は真剣なまなざしで見つめた後、大きく息を吐いて
「恥ずかしい思いをさせてすみません。私も緊張しています」と言った。
部屋のカーテンは開けられており、空調がされているので窓はしまっていたが27階の窓は天空の輝きが部屋に満ち溢れていた。

「脱いで、いいでしょうか」
菜穂子が言った。
「お願いします」と藤沢は言った。

手を後ろに回し、ブラジャーのホックをはずすと押さえつけられていた豊かな胸が解放されて飛び出した。下着によって整えられていたのは
事実であるが、自然な状態に解放されてもまだ張りと弾力のある美しい胸だった。一人娘の由香里を母乳で育てたが、そのせいで崩れてはいない。
ブラジャーを脱いだ服の上に置くまでは、無意識にも手を添えて覆ってしまっていた。ブラジャーから手が離れると菜穂子は直立の状態で
藤沢のほうに向いた。
少し、間をおいて(覚悟の間であったのか、確認の間であったのか)菜穂子はショーツに手をかけて自然な動きで引下げ、足から抜いた。
小さくしぼんだようなショーツをまた服の上に重ね置いた。

生まれたままの姿になって、藤沢の前に立った。
「これが、素の私です。」
「美しいです。生きた貴女に比べると芸術というものの価値がいかに愚かに思えることでしょう」
藤沢はそういいつつも、高価な価値のある芸術品に恐る恐る触れるかのように、無意識に手を伸ばしていた。
実際にその丸く張りのある胸に届きそうになったところで手をとめた。

「どうぞ、触れてください」
菜穂子が言った。
藤沢は伸ばした手をゆっくりと胸の丸みにそって当ててみた。陶器のように滑らかで白い肌は、確かに生きているぬくもりと弾力とをもって
その呼吸の深さを推し量るかのように躍動の動きを震わせていた。そして、その滑るような丸みの中心に突起する生命力の根源。
藤沢は時が止まったかのように凝視し、中央のしこった突起を指で丸みに押し込んでみた。跳ね返る。それ自体が生き物のようだ。

夢中になっていた自分の我に返り、藤沢は菜穂子の顔を見上げた。
菜穂子は優しいほほえみを見せていた。
藤沢は思わず目の前の菜穂子の腰を引き寄せて抱きしめた。ベッドに腰掛けた藤沢の顔が菜穂子の横腹にうずまる。
温かい。藤沢は力いっぱいに匂いを嗅いだ。菜穂子の素の香りである。ほほを右にむけるとへそがあった。
へそに鼻を押しつけた。
その下には、整えられたものなのか自然のままでそのように整っているのかわからないが、上品な光沢をみせる陰毛があった。

顔を近づけると菜穂子が藤沢の頭を両手で軽く支えた。
「待ってください・・・・わたし、よごれたままですから、できればシャワーを・・・」

「いや」
藤沢は支えられた頭部を菜穂子に向けて目を合わせた。
「私は素の貴女の香りを失われたくない。ですが、貴女にとっては耐え難い屈辱でしょうか」
そのまなざしには好色な嫌悪感がなかった。

「わかりました。おはずかしいですが・・・おまかせします」菜穂子は観念してそう答えた。
藤沢は菜穂子をベッドに横たわらせた。
見つめあって、菜穂子の無言の頷きを了承を見届けたあと、藤沢は菜穂子の隅々を愛しんだ。
菜穂子は素直にその感触に反応した。激しく身悶えることはなかったが、小さな喘ぎを何度となく漏らした。
藤沢が言っていたように、藤沢自身が身を露わにして何かを求めてくることはなかった。
菜穂子もその部分に触れてその現状を確認しようとも思わなかった。望めば応えるつもりではいた。
菜穂子の協力を求めるのであれば、不可是非は別として菜穂子も応える気持ちがあった。
だが、それは求められなかった。

藤沢は晴天の明光がまぶしく満ちる部屋で、その純白のベッドで反射され発光したような輝きとほんのり赤く染まる菜穂子の全てを堪能した。
身体だけではない。菜穂子の表情を菜穂子の甘い声を息遣いを堪能した。

「菜穂子さん、ありがとう。ほんとうにありがとう」

藤沢はまだしばらく菜穂子の残り香を余韻を楽しみたいという。
菜穂子はゆっくりと身支度をした。

「藤沢さん、今日が最後だなんて言わないでください。来月もお約束しましょう。そうです、お約束したではないですか
私にこの部屋から夜景を見せてくださると。来月は夜にしましょう。一緒に夜景を・・・」

「そうですね、菜穂子さん。そうでした。では、来月は夜七時に部屋で夕食をご一緒しましょう。楽しみにしています。
本当に楽しみです」

約束をして帰った。いつもの封筒を渡された。断るのも気の毒になるほど嘆願のまなざしで断りきれずに受け取った。
来月の約束は果たされるかどうかわからない。今日が最後であるというさびしげな藤沢に次を持っていてほしかったのだ。
それは来月の約束ではあるけれど、藤沢にとっては明日の、そしてその次の日の生きがいにしてほしかった。

封筒の中身を見て 大きくため息をついた。
もう、驚きではない。藤沢の決定権であり意思である。小切手の桁がまた一つ増えていた。一千万円。







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