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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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夢、破れたり-5

キャスター付きの椅子を、定位置に戻す駿河の動作を申し訳なさそうに眺めていると、奴の左肘の辺りが擦りむいていることに気付いた。


「す、駿河……、肘から血が出てるよ」


「ん、ああ」


言うまでもない。さっきあたしを受け止めてくれた時に負ってしまった傷である。


駿河がケガした一方で、あたしは彼のおかげでケガせずに済んだし。


ますます肩身の狭い思いで、身体を縮こませて突っ立っていると、駿河は事務所の隅に置いてあるパソコンデスクへとスタスタ歩いていき、そこの引き出しからばんそうこうを一枚持って来て、さっきのキャスター付きの椅子に座った。


そして、チラリとあたしを見上げると、隣に座るように促しながら


「古川、貼って」


とばんそうこうを差し出してきた。


「あ、……うん」


今のあたしは駿河には逆らえない。あたしはまともに奴の顔を見ないまま、隣の席にストンと座った。


左腕の傷口を見、ばんそうこうの包みを剥がす。


小さめのばんそうこうはガーゼの部分が傷口よりも明らかに小さいからどんな風に貼るのか悩んでしまう。


悩みながら傷口を眺めているうちに、他の部分が嫌でも目についてしまう。


血管の浮き出た、少し日焼けした腕。


身体は細身で顔も割と中性的な綺麗な顔の駿河だけど、やっぱりオトコなんだなあ。


この腕があたしをしっかり抱き抱えてくれたから、あたしはケガしなかったわけだし……。


そんなことをボンヤリ考えてしまったあたしは、思わず顔を赤くしてしまった。


ヤ、ヤバい! 駿河にちょっとキュンとしてしまうなんて……!!


この事実を受け止めたくないあたしは、正気に戻るよう頭をプルプル振って、手当に専念することにした。


ばんそうこうをピンと伸ばしてゆっくり傷口に近づけて行く。


意識してない、意識してない、意識してない。


何度もそう心の中で繰り返しながら、ばんそうこうを貼ろうとしたその刹那、


「古川、お前さ、そんなに男が欲しいわけ?」


と、突然駿河が失礼な発言をしたもんだから、あたしは思わずばんそうこうを傷から全然ズレた位置にペタリと貼りつけてしまった。






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