夢、破れたり-4
駿河の余計なひと言にカッとなったあたしは、駿河の手をバッと振り払うと、休憩用のキャスター付きの椅子を引っ張り出してきて、ローファーを脱ぎ始めた。
「フン、こんなのあんたに取ってもらわなくたって楽勝よ」
ベーッと思いっきり舌を出してから、あたしは椅子の上にヒョイッと上がった。
高くなった視界に一瞬クラッとしたけれど、すぐに気を取り直して目的の段ボールに手を伸ばす。
駿河なんかに頼らなくても平気なんだっての。
そう心の中で悪態を吐きながら、あたしは段ボールを戸棚から下ろそうとした、その時だった。
キャスターがついている椅子なんて、安定性なんてあるわけがない。
そんな足元が定まらない状態で、わりと重いコーヒー豆の入った段ボールなんかを高い所から下ろそうとすれば、当然――。
「きゃあっ!!」
「あぶねっ……!!」
あたしと駿河はほぼ同時に声を上げ、次の瞬間、
ものすごい衝撃音とともに二人して倒れ込んでいた。
キャスターがカラカラ回る音がやけに耳についた。
視線の先には、替えたばかりだという蛍光灯がやけに青白く輝いている。
顔面で段ボールを受け止めた痛みはあるものの、身体自体は痛くなかった。
背中から落ちたから、下手したら頭とか打ってもおかしくなかったのに。
不思議に思いながら、ボンヤリと天井のシミなんかを眺めていると、耳元から低い声がボソッと聞こえてきた。
「……古川、重い」
その声にハッと我に返りよく見ると、あたしの身体はしっかりと駿河の腕の中に収まっていたのだ。
「う、うわっ! 大丈夫!?」
下敷きにしていた駿河の身体から慌てて降りると、奴は眉をしかめながらムックリと起き上った。
「あー、痛え」
「ご、ごめん……」
「チビのクセに無理するからだろうが。余計な真似してんじゃねえ」
そう言いながら、駿河はひっくり返ったキャスター付きの椅子を起こした。
反論なんて何もできないあたしは、シューンと俯いて肩を竦めるしかできなかった。