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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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夢、破れたり-2

鏡に映るのは、少し濃いめのつり上がった眉と幅の広い二重。


うん、悪くない。


ニカッと笑えば虫歯なんてしたことがないのが自慢の白い歯が輝いて、えくぼがキュッと現れる。


うんうん、イイ感じ。


50キロ半ばの体重はさすがにちょっとヤバいけど、こんなの本気出せばあっという間に痩せられるはずだし。


あと、あたしに足りないものは……。


ここで以前絹子に言われた手痛い言葉を思い出した。


「小夜には色気と女らしさが足りない」


途端に鏡の中の自分が苦笑いになっていた。


確かにその通り。いつも大口開けて笑ってるあたしは、飲み会なんかでは盛り上げ役として中心にいる方だけど、それだけだし。酔って男の子に甘えるよりも、モテない自分を笑いのネタにしてウケを取る方に一生懸命になってるし。


こんなんじゃいつまでたっても女の子扱いされないってのは頭の隅ではわかってるんだ。


里穂ちゃんみたく、守ってあげたくなるような女の子を目指してみたい気持ちはもちろんあるけれど、オンナを意識した自分なんて想像できないし、なんだか自分に鳥肌が立っちゃいそう。


ああ、どこかに今のありのままの自分を受け入れてくれるような懐の深い男が現れないかしら。


こんなことを長年思い続けた結果が、彼氏いない歴イコール年齢の現実を生み出しているんだけど。


結論は、やっぱり女の子らしさか。


でも、どうすれば女の子らしくなれるんだろう。


そこであたしは、スウィングのアイドル・里穂ちゃんのさっきの姿を思い浮かべた。


駿河を見る時のアヒル口、上目づかい。さりげない身体のくねらせ方。


確かにアレは可愛かった。アレを見た男はイチコロなはずだ。


そしてあたしは再度姿見の前に立って、小さく息を吸い込んだ。


アヒル口、アヒル口っと……。


少し唇をすぼめて、上唇に力を入れてみる。そして口角が上がるように意識をして……。


続いて上目づかいか。


なるべく目をパッチリ開いて、少し顎を引いてみる。


よし、こんなもんね。


最後のおまけに、人差し指をピンと立ててアヒル口の横に添えてみれば、完成。


「うん可愛いじゃん、あたし」


満足気に肯いたあたしはこのポーズが気に入って、そのまま何気なしにくるんと後ろを振り返った、その刹那。


「……何してんだ、お前」


と冷ややかにこちらを見下ろす駿河の姿がドアの前にあった。





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