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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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この夏こそは-3

「怖っ、駿河に睨まれた」


思わずピーンと背筋が伸びてしまう。きっとこれ以上仕事以外のことを考えてたら、奴にキレられてしまうと察したあたしは、ようやくコインカウンターに入れた硬貨を数え出した。


全く、ユーモアのない男だ。


駿河はあたしより一つ年上の21歳。でも、このバイトでは一番の古株だから責任者のポジションを任され、店長からの信頼も厚い。


コインを数え上げる傍ら、チラリと駿河に視線を向けると、高校生カップルがお茶した後のカップを受け取っているところだった。


「恐れ入ります、ありがとうございます」


ニコッと営業スマイルを見せる駿河は、とてもさっきまであたしに冷ややかな視線を投げかけていた人物と同じとは思えない。


高校生カップルの彼女の方が、ポッと頬を染めている。


そしてそれを見たジャージ姿の彼が、慌てて彼女の手を引いて店を出て行った。


…………。


「でも、イイ男なんだよねえ」


突然横から、あたしが思っていた言葉を絹子が言い出したから、仮締め伝票に記入するペンを床に落としてしまった。


見れば、絹子はニヤニヤあたしを見ている。


「あんた、しょっちゅう彼氏が欲しい、彼氏が欲しいって言ってるんだし、この際だから駿河にしたら?」


「なっ!」


いつの間にかトレイの拭き上げを終えていた絹子は、あたしが落としたペンを拾ってくれた。


「いいじゃん、バイト内カップルができれば、次の飲み会盛り上がるよー」


「冗談やめてよ、なんであたしが駿河と……!!」


「だって、うちのバイト内で恋人がいないのなんてあんたと駿河と新人くらいのもんじゃん。


駿河は仕事もできるイイ男だし、小夜は……、とりあえずいいとこは見当たらないけどまあそこそこ可愛いし、結構お似合いよ? この辺で妥協して付き合えば?」


絹子はさりげなく失礼なことをサラリと言うと、ちょうどお店に入ってきた中年のおじさんサラリーマンに向かって「いらっしゃいませー」と、元気な声をかけた。






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