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シテはいけないことをスルということ
【その他 官能小説】

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『フラゲに注意』-2

 とうとう睡魔に負けた俺は、夢幻の彼方へと微睡(まどろ)んでいくのだった。

 ジ・エンド。

 ──って、こんなところで終わってる場合じゃないから。
 ていうか、まだ何もはじまってねえし、台詞だって一言も喋らせてもらってませんけど?

 みたいなことを独りでやっているうちに、俺はいつの間にかほんとうに眠っていたらしく、起きて目を開けるとそこに二つの人影があるのに気づいた。

 人の話し声が聞こえる。誰だろうと思ってよく見れば、例のきれいなお姉さんではないか。

 うわあ、近くで見るともうたまらんです。
 オリエンタルな要素がありながら、ちゃんと日本人女性の顔立ちを保っている、まさしく万人受けする美人さんである。

 瞬時にふくらむ妄想の中で、彼女はすでに俺の嫁になっているわけで、二人きりの甘い生活の味が口の中にまったりとひろがり、ついよだれが、よだれが、よだれが……。

「ここでなくしちゃったんです」

 彼女の声だ。鼻から三十パーセント、口から七十パーセントの割合で息を抜く、男心をくすぐる黄金比率である。

「そう言われてもねえ」

 困り果てた様子で彼女の相手をしているのは、おそらくここの管理人だろう。
 俺はふたたび狸寝入りを決めこみ、どのような会話が成されているのかを探るべく、できるだけ耳をでっかくしてみた。

「下着がなくなったままだと、なんだか気持ち悪くて」

「気持ちはわかるけど、それは利用する人の責任だからねえ」

「もしかしたら、そういう趣味の人が持ってっちゃったのかも」

「うちは防犯カメラもちゃんとしてるから」

「どうしよう……」

 そんなやりとりを盗み聞きしているうちに、あろうことか、俺の息子がむくむくと起き上がってくるのだった。
 彼女の事情を知った上での素直な反応だろう。

 一体どんな下着をなくしてしまったのか、俺の興味はその一点に絞られている。

「まあそのうちひょっこり出てくるだろうから、そのときはこっちで預かっておくんでね」

「ああ、それはどうも……」

 下着がひょっこりって、日本語としておかしくないかなあ、なんて思う俺であった。

 そんなときにどこかで電子音が鳴った。どうやら洗濯の完了を知らせるブザーのようだ。
 それを合図に俺は、今起きました、というふうを装って、ぎこちない背伸びを披露した。

 先の二人がこちらに目を配るのは当然であって、しかし俺は無関心なフリをしながらのろりと一歩前へ進み、さらにアドリブでラジオ体操第二をやらかしていた。

 いかん、これでは逆に目立ってしまうではないか──と心の中で呟く。

「お騒がせしてすみませんでした」

 そうやって彼女は不本意な言葉を口にして、管理人風の人物は、いいよいいよ、と手をひらひらさせている。
 咄嗟のアドリブのおかげで、どうやら自分は怪しまれずに済んだみたいだ。

 でもって彼女は最後に未練の残る横顔をちらりと見せて、そよ風のように店を去った。
 俺は俺の業務に没頭すべく、洗濯ドラムの中身をせっせと取り出しにかかる。

 それにしても彼女──もとい、俺の未来の嫁はどんなデザインの下着が好みなのだろう。
 お花畑みたいな可愛らしい刺繍の入ったブラジャーとか、あるいはサテンやシルクのような肌触りの良い素材にこだわったショーツだったりするのかなあ。

 欲しいなあ。猛烈に欲しい──。

 俺の脳内では色とりどりのハイビスカスが咲き誇り、エロチックな宴で女の子たちと戯れる、妄想ハーレム状態にあった。

 そんなとき不意に背後から、けほんけほん、と咳払いが聞こえたので振り返れば、分厚い瞼をこれでもかと細めてこちらを窺う管理人がいた。

 職務質問でもする気ですか?と俺は内心毒づいたが、「毎度あり」とだけ吐き出してその人も帰って行った。

「どういたしまして」

 これは俺の独り言だ。

 何はともあれ、当初の目的は無事に果たせたので、俺はふたたび引っ越し屋さんのロゴが入った段ボール箱を抱えて、もと来た道を徒歩で帰るのだった。

 相変わらず右も左もわからないため、ナビゲーションに頼ったのは言うまでもない。

 アパートに帰ったら、そのあとどうすっかなあ。せっかくの土曜日だし、どっかでアニソンのイベントでもやってないだろうか──。

 とかなんとか考えてるうちに部屋に辿り着き、上がって荷物を置くと、うむむむむ、と普段使わない頭脳をフル回転してみた。
 今日一日を有意義に過ごせるかどうかで、明日からのモチベーションが決まるというわけだ。

 そうだ。新生活もはじまったことだし、小心者だ小心者だと自分の殻に閉じこもるのはやめて、ここはひとつ革命を起こしてやろうじゃないか。
 俺だってやる時はやる男なんだってところを、日本中の女子に発信するのだ。

 鼻息荒く、俺はそう心に誓った。


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