イタダキマス-3
「誰か居る?」
砂漠に潤いが満ちたような清らかな声に、少年はたたらを踏んだ。
「え?」
思わず振り向くと砂蜥蜴には旅人らしい格好の人が乗っていた。
2頭に1人ずつで、残りの2頭には荷物が乗っている。
命の危機が無いと分かり、少年はヘナヘナと腰砕ける。
「子供じゃない?どうしたの?」
フードを目深に被って、身体を布ですっぽり包んだ2人は声からして女性のようだ。
「……ちょっと、遭難中……」
少年の答えにたっぷりと間を開けた2人は、成る程それは最もだ、と砂蜥蜴から降りる。
「じゃあ、その岩影を私達にも使わせてくれる代わりに水と食料を分けてあげるってのはどう?」
背の高い方の女性が交換条件だと言ってきたが、別にこの岩影は少年のモノじゃない。
答えに困っていると、小柄な方がケタケタ笑った。
「アハハ、ただで何かしてあげるのがイヤなだけなんだよ」
小柄な方はさっさと影に入り、パサッとフードを後ろに払う。
「アタシはパルティオ。パルって呼んで」
パルはふわりとしたショートカットの赤毛に、黒曜石のような真ん丸の黒目。
歳は同じか少し上かもしれない。
その後ろから背の高い方がため息をつきつつ岩影に入ってきた。
「……私はリュディヴィーヌ」
「りゅでび?」
「……リュディでいい」
あまりにも発音しにくい名前のリュディは、再び小さくため息をついてフードを外した。
サラッと流れた長い金髪は光の加減で緑色にも見える不思議な色、そして切れ長の目はオレンジ色。
こちらは20歳ぐらいの成熟した女性だ。
少年は慌てて立ち上がりお尻についた砂を払う。
「オレはテオドア」
「じゃ、テオだね。よろしく!」
パルはぴょこんと近づき、テオの手を両手で握ってブンブン振ったのだった。
パルとリュディは半年ぐらい一緒にいるらしい。
今はエザルに砂蜥蜴とオリーブオイルを届ける依頼を受けているのだと言う。
砂蜥蜴も影に入れてやり荷物を降ろしたパルが砂蜥蜴に水と食料を与えている間に、リュディは纏っていた布を広げていた。
「……この布は太陽の熱を遮断してくれる……砂漠越えには必需品」
「へぇ〜」
リュディは自分の布を地面に敷くと、真ん中にあるチャックを開けてそこにズブッと槍を突き刺す。