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想いを言葉にかえられなくても
【学園物 官能小説】

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想いを言葉にかえられなくても《冬の旅‐春の夢》-8

「あの…山形先生…。」
「ん、どうかした?」
「あ…の。勉強してても良いですか?」 
 受験生だ。暇なんて無い。勉強するのみ。鞄からノートと参考書、教科書を出す。
「真面目だな。どうせなら化学でも勉強して欲しいな」
「あ、でも教科書も参考書も持って来て無いから…」
「ここがどこだか解ってないのかな?化学準備室だよ。教科書くらいは色々あるよ。」
 そう言ってズラッと並んだ本棚を指差した。確かに教科書の類いで埋まっている。
「そうだ。私の作ったプリントをやったらどうかな?実力も解るし、アンダーラインを暗記するより身になるよ。」
 なるほど。一理ある。綺麗にファイリングされたプリントを数枚もらった。単元ごとにプリントが作られている。
「凄く几帳面なんですね。」
 感心しながらプリントに目を通す。大丈夫、難しいけどやりがいがありそう。そして、シャーペンを滑らし始めた。
………………
「ふう…」
 あれから先生は授業に出てしまった。その後、二人でお弁当を食べ(私は自分で作ったもの、先生はお弁当屋さんで買って来たもの)また午後の授業に出た先生。意外に忙しそう。私はプリントを採点して、間違った箇所を直したり…。
 でも、さすがに午後は暇だ。直した箇所は凡ミスだったし、これと言って考え込む事では無かった。だから、暇。
 整理された準備室。片付ける必要もなさそう。先生は几帳面なのか…。準備室を見て歩く。と言っても本棚や実験器具、机など所狭しと並んでいるので歩く程では無いが。
 本棚は化学資料やファイル、文献がきっちり並んでいる。篭崎龍奏のカケラもない。
 山形先生、篭崎龍奏…全く違うのに。彼は天才?文学も化学も音楽も。
「…なんかと、次元が違う…」
 そう、私…なんかと。何が趣味でどれが本職か、選べる時点で次元が違う。
「私なんて…」
 自分を振り返る。足跡は何も残ってない。何も見えない。
「はぁ…なんか、比べたくないけど……せつないな。」
 鞄から昨日買った新書を取り出した。『月に溺れる花』。
 彼が言うように、私は新書が出る度に学校に持って来る。家で読んでも飽き足らず、そう…図書館の右端で読む。
「でも今日は…」
 ここで読み始める。待っていたいのだ。…彼と離れたくない…。偶然にしろ、こうして知り合って、話をして、お弁当を食べて。なんだかサヨナラしたくない。明日だって明後日だって、学校に来れば会えるなんて解ってる…だけど、だけど……
「新作はどう?」
 後ろから声を掛けられてドキッとした。考え込んでいたせいでドアの開く音に気付かなかったみたいだ。
「新作、読み終わったんだろ?」
「あ、はい。」
「‘山形先生’も終わった事だし。行こうか」
「え?あ…どこに?」
「決まってるだろう?デート。ずっと待ってた高橋紫乃にご褒美、かな」
 くすくすと笑いながら、白衣をハンガーに掛け鞄を手に取る。
 真っ赤になって追いかける私。
「待ってたの、気付いて…!」
「気付いてないわけないだろ?ははっ」
 言いながら化学室のカーテンを閉める。まだ三時ぐらいだから、窓から見える教室は授業中だ。
「静かにな。俺は職員室に寄ってから行くから、そうだな…待ち合わせしようか?」
「そうですね、学校から一緒に帰るなんて出来ませんからね。」
「あぁ。見られたら不味いしな。」
 私との事は秘密なのか…。当たり前の事に今頃気付く。


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