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想いを言葉にかえられなくても
【学園物 官能小説】

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想いを言葉にかえられなくても《冬の旅‐春の夢》-4

 帰り際に使ったメイク道具を購入した。
「使い方、これに詳しく出てるから、古いけど持って行って良いよ」
 雑誌を差し出した。確かに角はヨレヨレだったけど嬉しかった。
「ありがとうございます。こんなに良くしてくれるなんて…」
「ふふっ。いいのよ」
 そう、笑顔で見送ってくれた。どこかで見た事がある笑顔だった…。
……………… 
 さて…。明日、どうするかな。ただサインを書いてもらって、握手をしただけでは記憶の片隅にも残らないだろう。
 何か、良いアイディアは無いだろうか…。
 机の引き出しから便箋と封筒を取り出す。少しベタだが手紙を添えるのも良いかも。あ…でも、作家相手に手紙なんて。相手にされないだろうし…。ああ、どうしよう…
………………
 爆発しそうな胸を抱き、書店のサイン会場前に並んだ。
 服装は昨日見立てた物を着た。室内は暖かい。丈の短いトレンチコートを脱ぐと、黒のすかし網のニット。中は黒のキャミソール。外ではさすがに肌寒かったが、店内では丁度いい感じ。
 下は思い切ってスカートを買った。黒いひざ上ギリギリのスカート。
 ブーツも初めて履いた。ヒールが高くて転びそうになる。それなのに普通に歩いている女子高生たち。尊敬に値するなぁ。
 でも、さっきから視線が痛い。全身真っ黒に武装したのがいけなかったのだろうか。それとも、試行錯誤したメイクが駄目なのだろうか。
「では、只今より新書《月に溺れる花》の発売記念サイン会を開催します」 
 遠くの方からスピーカーによる声が聞こえる。いよいよ…。この奥に、あの篭崎龍奏がいるなんて…。
 握手、サイン、写真撮影…この繰り返しの中で私は記憶の片隅に残れるのだろうか。次々と順番が廻り、ついに私の番になってしまった。
 視線がぶつかる。篭崎龍奏は無遠慮に見つめる。表情は一切崩れない。
 差し出された手は大きく、ペンだこが不似合いに存在していた。触れると、子宮がギュッと掴まれた様に熱くなった。
 胸の高鳴りは最高潮で、考えていた言葉は何一つ紡げず、手紙を渡す事しか出来なかった。
「では、写真を撮りますか?」
 脇で関係者がカメラを向ける。
「いや…ちょっと待って」
 ビクッとした。深く低く耳に残る声。人間なんだから話すのは当り前なのに…どこか神の様な存在と思ってるから驚いてしまう。
「写真は一緒には無理だ…。悪いけど…サイン会はここまでだ」
 ポカンとする関係者の脇を早足で通り過ぎる。「せっ…先生!そんな勝手すぎます!まだファンが」
「昨夜書いた色紙、配れば良いだろ。」
 そして扉から出て行く瞬間、じっ…と私を見詰めた。手には私の手紙が握られていた。
………………
 呆然としながら家に着く。何だったんだ?私…拒否られた?一世一代のチャンスは呆気なく散ってしまった。
 ベッドに横たわり、手紙について思い起こす。手紙の内容は色々考えたが、結局簡素な物にした。
 拝啓も何もない、白い便箋の真ん中にこう綴った。
『篭崎 龍奏様
何も知らない筈なのに、こんなに胸が高鳴るのは貴方の紡ぐ言葉に恋をしたのかもしれません。
高橋 紫乃』
 手紙はラブレターにした。本当なんだから仕方が無い。言葉に恋してたけど、テレビで見た瞬間彼自身にも惚れてしまったのだから。私をここまで動かせた、エネルギーは恋なのだから。
―ピピピピピピピッ
 着信を告げる音が鞄の中から聞こえる。慌てて取り出すとメールだった。
「?」


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