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大陸各地の小さな話
【ファンタジー その他小説】

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ハッピー・サマー・ウェディング-2

 ***

「ミスカ?どうしましたか?」

 物思いにふけってしまったミスカを、エリアスは怪訝な顔で見上げた。
 享楽と好奇心が服を着て三つ編みしているようなミスカは、面白そうなものを見つけると、すぐ飛んで行ってしまう。
 特に、地上では知識で知っていても初めて見るものがまだまだ多く、あちこちの街で珍しい風習を見るたび、子どものように大はしゃぎだ。
 まぁ、そんなミスカを見ているのが、エリアスも実は楽しくてたまらないのだが。
 しかし広場から去って行く新婚の馬車を眺め、ミスカは何か考え込んでしまったようだ。

「……エリアス、宿をさっさと見つけるぞ」

「え?」

 突然手を引かれ、宿の看板が多数出ている賑やかな通りへと駆け出される。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 ほとんど引き摺られながら、適当な宿に飛び込んだ。
 狭いが清潔でなかなか気持ちのいい部屋を借り、扉を閉めたミスカが、エリアスから荷物をとりあげ床に置いた。

「い、いったい……ハァ……なんですか?」

 走らされまくったおかげで、息も切れ切れにエリアスは訴える。
 一方でミスカは呼吸一つ乱さず、ニヤニヤ笑っていた。

「エリアス、女体になってくれよ」

「……はい?」

「いいから早く」

 いきなり走りまわらされたのは、したくなったせいかと、エリアスは少しムッとした。文句の一つもいいたい所だ。
 しかし抱き締められ、耳元でもう一度ねだられると、しぶしぶ女体へ戻る呪文を唱えてしまう。

 ――うぅ……こうやって甘やかすのが良くないのです。と思のも、毎回のことだ。

 ところが、早速押し倒されると思っていたのに、エリアスを抱き締めたまま、ミスカは金の魔眼を光らせる。

「しっかり掴まってろよ!」

「え!?ちょっ!どこに行く気……わぁぁ!!!!!」

 ふわっと浮遊感が身体を包み……次の瞬間、足元の地面消えた。
 ミスカにしっかり抱きかかえられたまま、まっ逆さまに空中を落下し、エリアスの喉から悲鳴があがる。
 アレシュの側近時代、身体が溶けて別の空間に転移される魔眼移動は慣れていたが、少なくとも出た先が空中だった事はなかった。

 眩しい陽光に眼が眩み、ここがどこかもわからないまま、盛大にドボンと水中へ叩き込まれた。
 深い透明な水中へブクブク沈んでいた身体が、下から勝手に持ち上げられる。
 ミスカに操られた水が、底に付く寸前で二人をゼリーのように受け止めたからだ。
 そのままぷよぷよした水面に持ち上げられ、大きく息を吐き出す。

「ぶはぁっ!?」

「ははっ!!!気っ持ち良いーーー!!」

 びしょ濡れになったミスカが、大笑いする。
 二人がいるのは、大きな滝つぼの水面だった。エリアスの目の前で、はるか高い崖上から流れ落ちる滝水が、陽光にきらめき虹を作り出している。

 緑陰が立ちこめる周囲に人気はなく、木々の奥からは小鳥のさえずりが聞える。
 とてものどかで美しい風景だ。どこかで見覚えがあると思ったら、以前に立ち寄った事のある、辺境の山奥だった。
 この滝をミスカは非常に気に入っていたし、エリアスも美しいと思った。

 しかし……と、ミスカをギロリと睨んだ。

「いくら水遊びをしたかったといえ、やりすぎです!」

「いや、暑かったのもあるけどさぁ」

 笑いながら、ミスカがびしょ濡れになったエリアスの服に手をかけた。

「エリアス、結婚式しようぜ」

「……?」

 一瞬、暑さでミスカの脳がやられたのかと、本気で心配になった。




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