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眠れない男
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眠れない男-1

眠れない。
 
 
眠れない。眠れない。
 
コーヒー飲みすぎたか?
いや興奮してるわけじゃないな…
 
昼寝したっけ?いやしてない気がする…今日何してたか忘れたけど。
 
特にストレスとかないんだけどな…不眠症って奴か?
ヤバいな…明日も朝から仕事なのに…
 
 
 
俺はなぜか眠れないで困っている。何か自分の体に異変が起こっているのか、という不安が眠れないのを助長する。
その不安をかき消すために俺は様々なことを試すことにした。まずはストレッチで体をほぐす。体が疲れすぎると眠れないと以前聞いた気がする。次に暖かい飲み物を飲む。リラックスすればおのずと眠くなるはずだ。それに加えてヒーリングミュージックもかけよう。昔誰かにもらった物だが、まさか使うとは思っていなかった。
 
他にも枕を変えたり、ベッドの位置を変えたりしたが結局眠れず、その日は無睡のまま朝を迎えた。
 
その日は一睡もせずに一日仕事をこなしたが、意外にも疲れや怠さは無かった。むしろ目が冴えて仕事がはかどったくらいだ。
その日の夜もまったく眠れず、丸二日起き続けたことになった。
 
あの『異変』から二日目の朝。まだ目が冴えている。俺は自分でも気が付かないうちに覚醒剤でもやったのだろうか?これだけ起きてて辛くないなんて生まれて初めてだ。俺は怖くなって病院へ行くことにした。
 
その日は仕事場に体調不良と連絡して病院へ行った。体調が良すぎるのに病院へ行くとはおかしな話だ。
 
体にまったく異常はなかった。医者はすこぶる健康だと太鼓判を押してくれた。不眠の原因は結局分からずじまいのまま帰宅した。
 
やはりその日も眠れない夜を過ごした。
それから俺はずっと眠らず過ごし続けた。昼間は今まで通りの生活をして、夜は完全に趣味にあてた。世界中で一日24時間過ごすのは俺だけた。人の二倍の人生を生きてる感じがして、俺は心底この『異変』に感謝した。
 
 
『異変』から三ヵ月が過ぎた。俺はまだ一度も眠っていない。夜も家で仕事をこなすようにした結果、業績も格段に上がった。全てがうまくいっている。俺は奇跡の人間なんだ。
 
 
しかしさらなる『異変』は突然起こった。
 
激しい、それこそ今までの分を取り返すような眠気が俺を襲ったのだ。
まるで麻酔銃で打たれた動物のように、俺は床に崩れ落ちた。
 
 
 
 
 
「――さん、聞こえますか?私の声が聞こえますか?」
誰かの呼ぶ声で俺は目覚めた。久しぶりの睡眠はとても深かったようで、目が霞んでうまく見えない。しかしどうやらベッドに横になっているということは分かった。
起き上がろうと思ったが、体が異常に重い。声もうまく出せない。本当に長いこと眠っていたようだ。
 
目が慣れてきて周りを良く見ると、見慣れない光景が広がっていた。
どうやら病院のようだが…何かがおかしい。周りを取り囲む数人の医師や看護士らしき人たちにも違和感を感じる。
 
 
一人の医師が話しかけてきた。
「どうですか?50年ぶりの目覚めは?」
 
 
 
END


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