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ひとしずくの排卵
【その他 官能小説】

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-3

「それじゃあ、もう一度浴衣の着付けをしてもらってから、美智代と一緒にお祭りに行ってくる」

「うん。そういえばほら、変な男がまだこの町にいるかもしれないから、くれぐれも気をつけてな」

「心配してくれてありがとう」

 その男はきっと佐々木さんだから、と春子は言いたかった。
 佐々木繁に犯されそうになったあの日以来、彼は深海親子に近づこうとはしなかった。
 だからなのか、春子自身も身の危険を感じることもなく、今日まで過ごしてきたのである。

「行ってきます」

 言って振り返る春子の笑顔に、一瞬、不安の影がつきまとっているように紳一には見えた。



 静まり返った家に春子の残り香があった。
 香りのもとを辿っていくと、洗濯かごの中のハンカチに行き着いた。

 春子は自分の恥部をハンカチで拭い、それを下着と重ねて置いていったのだ。
 紳一は春子の肌触りを思い出し、ハンカチの濡れたところに触れてみた。
 愛しい液が指を湿らせ、たまに匂ってくる。

「紫乃、まさか君の娘を恋しく思う日がくるとは、思ってもみなかったよ。だらしのないこんな僕を、女癖の悪い男だと叱ってくれ」

 呟いていると、玄関先に人の気配を感じた。

「春子なのか?」

 硝子戸の向こうで人影が揺れると、それが春子のものではないとすぐにわかった。
 来客は佐々木繁であった。

「紳一くん……」

 あらわれた繁の表情は重く、年齢よりもさらに老け込んで見える。

「ずいぶんご無沙汰していましたね。どうかしましたか?」

「じつはあのとき、わしが犯してしまったんだ。おなごの体に目が眩んだんだ……」

 繁の言っていることは意味不明であった。
 その場にへたり込んだ繁は肩を震わせて、拝むように俯いた。

 彼の異様な雰囲気を見て、紳一にもようやく察しがついた。
 あの日、墓地で少女を犯したのは佐々木繁だったのだと思った。

 火男の面を被った繁が、少女に淫らな仕置きをする姿が頭に浮かび、紳一は何ともやりきれない気分になった。
 頭が痛かった。


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