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ひとしずくの排卵
【その他 官能小説】

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-3

 遠くのほうから太鼓の音が聞こえてくる。
 それは春子の胸の高鳴りをかき消すような響きであった。

「お父さん……」

「うん」

「何だか胸が……息苦しくなってきちゃった……」

 紳一が振り返ると、朱色の帯のあたりを手で押さえながら春子が天井を仰いでいる。

「どこか痛むのか?」

「帯が……帯が……」

 どうやら帯をきつく締めすぎたらしい。春子のひたいに汗が滲んでいる。

「少しゆるめるか?」

 紳一の気遣いに春子は首を横に振って、「解いて……」とかすれた声で応えた。

 帯の解き方はわかっても、結び方など紳一にはわからない。
 しかしそれはそれ、これはこれである。

 我が娘の晴れ姿を見納めして、帯の結び目に手をかけると、しゅるしゅると解いていった。
 それはもう紳一の理性が解けていくのとおなじで、渦を巻きながら座敷の上に落ちていく。

 ようやく帯の締めつけから解かれた春子は、はあっと息を吐いて、紳一の胸に寄りかかった。
 浴衣からは仄かにナフタリンの匂いがする。

 大きくはだけた胸元からのぞく肌襦袢も、寝返りをうてば思いがけなくめくれてしまいそうで、それでも春子は着くずれを気に留める様子を見せない。

「お父さん、あのね……」

「うん」

「明日からは、あんまり甘えないようにするから。だから……」

 今にも泣き出しそうな春子の表情に、言葉の先を思いはかろうとする紳一。

「私はやっぱり、お父さんのことが……」

 春子の口がすべてを言ってしまう前に、紳一の唇がそこを塞いだ。
 二人の息が止まる。
 春子は顎を突き出して目をつむった。

 唇いっぱいに広がる柔らかな感触は菓子のように甘く、父だとか娘だとかいうものを超えていた。
 重なる唇を離すと、春子は深く息をついて生唾を呑み込んだ。
 潤んだ黒目が紳一を見つめている。

「お父さんの気持ちが変わっても、私はずっとお父さんが好き。だからお願い、好きでいさせて……」

 春子の言葉に、森咲つぐみを抱いた日の出来事が紳一の脳裏を過ったが、それを忘れようとふたたび春子の唇をむさぼった。

 紳一よりも小さな体をさらに小さく縮ませて、くるぶしで畳を擦って身をよじる春子。
 しだいにはだけていく浴衣の裏地にあさがおが透けて見える。
 春子の肌は何よりも白く、目に焼きつくほど眩しい。

 一度目に春子を抱いたあのときよりも強く、体を掻きあさった。
 紳一の手は春子の体のどこにでも届いた。
 浴衣の中へ手を割り込ませると、春子の脚から下着を抜き取った。

 二人の唇はまだ重なったままだ。
 ほどなく紳一も自らの着衣を脱ぎ捨てて、すでに浴衣一枚きりになった春子の成長を手指で確かめていく。

 春子の背後から両腕をまわし、乳房のふくらみをわしわしと揉む、左の手。
 縦にすじの通った陰部をまったりといじくりまわす、右の手。

「んふん……」

 口づけたまま春子が声を漏らす。
 春子の体はできあがっていた。
 乳房も、膣も、子宮も、卵巣も、すべて相手を悦ばせるために備わっている。

 春子はおもむろに自分の股に指をあてがい、切ない表情で陰唇を撫でた。
 その指を紳一の鼻先に差し出す。

「お父さんのことを考えると、こんなに湿ってくるの……」

 紳一は躊躇なくその指を口にふくんで、糸垂れる愛液をすすった。
 良い塩梅で喉から下りていく。

 吹き上がる性欲は、射精すれば少しはおさまるだろう。
 けれどもそれで終わるのは惜しい。

 こんなにも明るい陽光の下で春子の肌を見られることなど、この先何度あるかわからない。
 そんな思いが紳一を煽(あお)っていた。


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