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ひとしずくの排卵
【その他 官能小説】

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 それから何日も雨は休まず降りつづいて、たまにのぞく晴れ間が水たまりに映ったかと思えば、あっという間に雲の向こうへ消えていく。

「あれから何も起こらないね。犯人はもう遠くへ逃げてしまったのかしら」

 校舎の窓から外を眺めたまま、うんざりした感じで桜園美智代が言った。

「どうなんだろうね。その人がいなくなったとしても、男の人はみんな私たちのことをそんなふうに見ていたりするから、やっぱり怖い」

 春子は口調を強めた。

「こんなことなら、合気道とか習っておけばよかった」

「美智代はそんな心配いらないんじゃない?」

「それはどういう意味なの?」

 二人はお互いのスカートを引っ張って、いやだ、やめて、とふざけ合った。

「あなたたち、女の子なんだから、もっとおしとやかにしなさい」

 途端にお叱りの声を浴びる春子と美智代。
 そちらに目を向けると、相変わらず清潔感のある容姿をした森咲つぐみが、分厚い教科書を抱えて立っていた。

 すみません、と二人が反省の色もなく頭を下げると、つぐみは春子だけを廊下に呼び出した。

「あれからお父さんの体の具合はどう?」

「先生のおかげで父の体調もすっかり良くなって、仕事にも出られるようになりました。あのときはありがとうございました」

「いいえ、私はお見舞いに伺っただけだもの。それより、もうすぐ町内のお祭りがあるわよね。春子ちゃんは誰と行くの?」

「私は美智代と行くつもりです」

「そう、桜園さんと……」

 そう言ったそばで、つぐみの頬が赤らんだように春子には見えた。

先生はきっとお父さんと一緒にお祭りに行きたいんだ。
私だってほんとうはお父さんと行きたいけれど、そんなのまわりから見たら絶対におかしいもの。
だけどお父さんのことを先生に取られたくない──。

 目の前の晴れやかなつぐみと、可愛げのない自分。
 比べる物差しはないけれど、つぐみに対してはどうしても一歩引いてしまう春子であった。


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