投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

ひとしずくの排卵
【その他 官能小説】

ひとしずくの排卵の最初へ ひとしずくの排卵 16 ひとしずくの排卵 18 ひとしずくの排卵の最後へ

-2

 夜になって紳一が帰宅すると、玄関の電話が鳴った。

「私が出るから」

「ああ」

 電話に出た春子が名乗ると、受話器の向こうで森咲つぐみが申し訳なさそうに名乗った。

「森咲先生、こんばんは。こんな時間にどうしたんですか?」

「ちょっと、お父さんにお話があるのだけれど。いらっしゃる?」

 春子はすぐに紳一と代わるのだが、二人のあいだにどんな事情があるのか気にかかる。
 学校のことだろうか。あるいはもっと親密な事情があるのか。
 そんな春子をよそに、紳一は照れ臭そうに電話に応じている。

「このあいだはあんなことを言ってしまって、すみませんでした。私のことは気にしないでください」

 昨日、二人きりで身を寄せ合っていたとき、彼女から「好きです」と告げられた場面が紳一の頭を過った。

「僕のほうこそ、先生がそんなふうに思っていたなんて知らずに、すみません」

「そのことはほんとうにいいんです。それよりも、本をいただいたお礼がしたかったものですから。その……、何かご馳走させてください」

「そんなに気を遣っていただかなくても大丈夫です。僕も本の処分に困っていたところだし」

「迷惑……ですよね……」

 つぐみの残念そうな声が、紳一の耳をくすぐっている。

「せっかくだから甘えさせてもらおうかな。本の感想も聞きたいし」

 紳一は明るい調子でつぐみの誘いを受けた。

「是非、そうしてください」

 つぐみの声は高くはずんでいた。
 そうして二人で会う約束をして電話を切ったのだが、紳一の話し声を聞いていた春子は、当然おもしろくない。

「どんな用だったの?」

「本を譲ったお礼に、食事をご馳走してくださるそうなんだ」

「ああ、そう」

 春子はあからさまに嫉妬した。娘の自分が適うわけがないと思った。
 そして思わず口がすべった。

「じつは今日ね、養鶏場の佐々木さんに……」犯されそうになったと言いたかったが、自分の不注意を嗜められそうで、やっぱり言えなかった。

「佐々木さんがどうした?」

「ううん、何でもない」

 紳一のほうも、昼間に九門和彦と偶然会ったことを春子に言えずにいた。
 お互いに後味の悪い気持ちのまま、夜が更けていった。


ひとしずくの排卵の最初へ ひとしずくの排卵 16 ひとしずくの排卵 18 ひとしずくの排卵の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前