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ひとしずくの排卵
【その他 官能小説】

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-2

 その日の授業は五時限で終わった。
 春子は家に帰る途中で墓地に寄り、母が好きだった花を供えてお参りした。

「私は、自分のすべてをお父さんに捧げた。お母さんとおなじ人を好きになるなんて、やっぱり血は争えないね」

 そうやって母に話しかけた。
 そしてできるだけ父の荷物にならないように、ずっと優等生でありたいと誓うのだった。

 少女の思いは天に通じただろうか。
 田んぼで発情する蛙の鳴き声だけが聞こえていた。



 紳一より先に帰宅した春子は、さっそく机に向かって宿題に手をつけた。
 かりかりと鉛筆をはしらせる音しかない、静かな部屋。
 ときどき頭に浮かんでくるのは、夕べの父とのことだ。

 お父さんは私の体のどこを触っていただろう。どんな匂いがして、お互いに何を感じていただろう。

 そんなことばかりに思考をはたらかせているうちに、体型に合わないブラジャーの中で乳首が起った。
 別のことを考えようとしても、余計に妄想がふくらんで勉強に集中できない。

 ふとして時計に目をやると、父の仕事が終わるにはまだ早い時間だった。
 庭に出て、火照った頬に風をあててやる。心地良い気温であった。
 生け垣は家の裏側までつづいていて、その向こうには田畑が広がっている。

「あった……」

 見つけたのは、生け垣に絡みついて伸ばし放題にしてある糸瓜(へちま)だった。
 さほど大きな実をつけているわけではなく、虫食いの葉っぱを揺らしながら、細長い実をぶら下げている程度だ。

 下腹部の具合がじんわりと熱くなってきた。
 制服のポケットからハンカチを取り出し、糸瓜をそっとくるんでそのままもぎ取った。

 人目がないのをいいことに、春子は色気のない下着を下ろしてしゃがみ込む。
 誰も見ていないはずであった。

 しかしながら、少女に忍び寄る視線がここにもあった。秘め事を見届ける目だ。
 どこからともなく雌(めす)の匂いを嗅ぎつけてくるのも才能なのだろう。
 老いても男である。男の股間はすでに狂い起っていた。

 そんなこととは知らない春子は自分の股をのぞき込み、青々とした糸瓜で割れすじを撫でてみた。

「あん……」

 冷ややかな快感だった。そのまま陰核まで持っていくと、目の覚めるような刺激が春子をおそった。

 もう一度、糸瓜を振り抜く。
 もう一度……、もう一度……。

「あううん……」

 我慢を知らない体である。春子は何度も身震いした。
 快感に押し倒されそうな体をどこにやったらいいのか、春子は空いたほうの手で芝生を引っ掻いてみたり、地面に手をついたりをくり返している。
 自分なりの『慰め方』というものがまだ定まっていないのだ。

 やはりあのときとおなじように、男は春子の様子を窺いながら、念仏みたいな独り言を呟いていた。

「まだ高校生の春ちゃんがそんなことをしちゃいけないな。自分の女々をいじくりまわすなら、俺の指を貸してあげよう」

 言いながら指の関節をぼきぼきと鳴らし、じっと春子を見つめたまま瞬きをしないでいる。
 男の精液はすでに煮えたぎり、今にも逆流しそうになっていた。

「ほおら、もっと奥までほじくり返してごらん。そうしたら女汁が吹いてくるんだ。俺もそろそろ吹きそうだ。春ちゃんの中に吹かせておくれ」

 男は上擦った声を発した。
 春子の呼吸も乱れはじめている。

 魚の鰓(えら)のようにも見える陰唇を手で剥いて、その若い溝に糸瓜を忍ばせていく。
 自分の体の一部がだらしなく濡れていることを、春子は認めたくなかった。

 それでも青い実の半分ほどが体内に埋まり、真新しい雫をしたたらせている。

お腹が息苦しい──。

 春子は迷っていた。父はもっと奥まで入ってきていたはずだ。
 これを全部入れてしまっていいのかわからない。

 すぼすぼと糸瓜を引き抜き、すっかり瑞々しくなったそれを悩ましく見つめた。
 そして思い出したように後方を振り返り、辺りを見渡した。

 まずい、と男は一歩引いた。自分の存在に気づかれたのだと思った。
 しかし春子は男のいるほうには見向きもせず、花壇のアロエに手を伸ばしている。

 棘のあるアロエの葉を用心深く折ってみると、そこから水分がはじけ飛んで指を濡らした。微かなぬめりがある。
 アロエの断面を指ですくって陰部に塗り込む春子。
 わあっと湧き上がる快感が膣に広がった。

 ふたたび糸瓜を握りなおし、そのままゆっくりと膣に通していった。むずかしいことではなかった。

「気持ちいい……」

 感情が口をついて出た。青い実のほとんどが春子の中におさまっている。
 息めば糸瓜が顔をのぞかせ、それをまた指で押し戻す。

 ここで春子は自慰を知った。下唇を噛み、しゃくり上げるような声を出す口に蓋をして、さらに上り詰めていく。

 そんな無防備な背中に、不吉な影が迫っていた。


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