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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩み6 〜桜、舞う〜-6

「ん……あ、おいし」
 ガスパチョを一口飲んだ美弥は、嬉しそうに顔を綻ばせた。
 冷たいスープをこくこく飲むと、今度はスパゲティに取り掛かる。
 ホールトマトを煮詰めて調味したソースを絡め、たっぷり粉チーズを振り掛けたこちらも、文句なく美味しい。
 ――巴と竜彦がきっちり仕込んだおかげか、龍之介の料理の腕前はなかなかのものだった。
 その龍之介が割と味にうるさいというのは竜彦から聞かされた話だが、初めてそれを聞いた時は目玉が飛び出る程に驚いたものである。
 龍之介に手料理を振る舞うと好き嫌いも文句もないし、なおかついかにも美味しそうにぺろりと平らげるから、てっきり味付けや盛り付けにはうるさくないものだとばかり思っていたからだ。
 実際の所は……躾に厳しい彩子が美弥へ炊事を始めとする家事全般を幼い頃からきっちり教え込んでいたため、美弥の料理の腕前は味にうるさい龍之介も満足できるレベルに達しているのである。
 だから龍之介が文句も言わずにぱくぱく食べてしまうのだとは、美弥は夢にも思っていない。
「そっか。気に入ってくれてよかった」
 龍之介は微笑むと、自分の分の山盛りスパゲティを片付け始めた。
 龍之介が三人前分のパスタを捜し出した理由が、ここにある。
 腹が減ったと自覚していた自分はもちろんの事、美弥の方も空腹を訴えたため、龍之介は三人前分のパスタを茹でたのだ。
 まあ……余分な一人前のうちの八割は、龍之介がいただいてしまっているのだが。
 うぐうぐと喉を鳴らしてスパゲティを幸せそうに喉へ詰め込む美弥を眺めつつ、龍之介はガスパチョを飲む。
 その目は、ふと思考に耽った。
 恋人と夜を過ごし、朝には共に起き出して同じ物を美味しく食べあえる。
 そう考えた途端、ありふれているからこそかけがえのないこの幸福が、不意に龍之介の胸を満たした。
「う?」
 フォークにスパゲティを巻き付ける手を止め、美弥は首をかしげる。
 口一杯にスパゲティを詰め込んだ状態では、あまり締まらない。
「……あまり掻っ込まないの」
 いきなり緩みそうになった涙腺を必死で締めながら、それに気付いた龍之介は忠告した。
「ここ、ソース付いてる」
 言って指先で、唇の脇を撫でる。
「うゅ?」
 口一杯に詰め込んだスパゲティを嚥下すると、美弥は指された場所を指で拭った。
「だって、美味しいもん……」
 拗ねたように美弥が言うと、何とか涙を堪えた龍之介は微笑む。
「はいはい。ありがとう」
 そんな龍之介の葛藤に気付かず、美弥はスパゲティを頬張り始めた。
 龍之介もまた、スパゲティを胃袋に収める。
 ――腹のくちくなった二人は三大欲求……食欲(食う)・睡眠欲(寝る)・性欲(遊ぶ)に従い、仮眠を摂った。
 午後も半ばを過ぎてから起き出し、思わず笑い合ってしまう。
「怠惰な一日だなぁ……」
 だがまだ一日残っているのだからと、起きた二人は……主に龍之介が、性的接触のないいちゃいちゃべたべたらぶらぶをして、一日が終わってしまった。


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