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涙がつくる幻想的な世界
【ノンフィクション その他小説】

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涙がつくる幻想的な世界-1

何故歪んでいるのか、僕の視界は。ぼたりと下に何かが落ちる。落ちる瞬間、歪みどころか世界が揺れているとさえ感じてくる。
あぁ、そうだ。僕は涙を溜めてるんだ。だから、こんなにも世界が違って見えるんだ。
そのくせ、耳に入る雑音は変わらない。一方的に好き勝手喋るつぎはぎ人形や、家庭的な効果音を装うがらくたの音のように聞こえてしまうけど。
綺麗な銀糸がどこからか垂れている。ゆらゆらと揺れて、時折光沢や気泡を見せたりして。鼻のくすぐったさを感じる。
あぁ、そうだ。これは鼻水だ。実際には汚らしくて、黴菌まで含んでいる。
たげども、涙と同時に綺麗な宝石のようにしか見えない。何とも幻想的で触れることへの躊躇いがなくなるから、手の甲には冷たくべとつく感触がスムーズに受け入られる。
好き勝手喋り続けたあげくに、銀糸に対して怪訝そうに見るつぎはぎ人形は、その辺にあるタオルを差し出す。嫌味なくらい純白なタオルには、呆れを含んだ憐れみが込められていた。
僕にはうっとうしいことだった。例え純粋な憐れみであっても、呆れだけのことであろうと、どの道受け取れないものだ。そして、純白を綺麗どころか忌まわしい物としてしか見られない。
無意識ではなく、拒みの気持ちでタオルを払いのける。そして、嫌みに「汚いよ」と言葉を漏らす。その嫌みを修飾するかのように、遠いティッシュ箱に向かう。
更なる呆れを含む視線が背中に刺さってくる。だから僕は、強めに銀糸をティッシュに吐き出した。そして、対象的に視界に幻を見せた涙を軽く拭い取る。
しかし、つぎはぎが喋るとまた僕は幻想的な世界へ連れ込まれる。それが酷くなればまたティッシュ箱の元へ行く。その繰り返しを僕は何回しただろうか。

つぎはぎに用事が飛び込んでくるなり、一時的に僕は解放される。その隙を見て、自分の部屋へさっさと逃げ出す。
あぁ、僕の部屋は何て静かなのだろう。雑音といえば、時計の針が動く音ぐらい。また、たまに車の走る音が背景のように聞こえるだけ。机に向かえばティッシュ箱が置いてある。そこでなら、すぐにそれに手を伸ばせる。
机に肘を付いてすぐ、視界は歪んだ。また、それが揺れたりもした。大粒に離された涙は、広がるように机に落ちる。机に零された瞬間のぷるんと形が崩れる時、新たな幻を見た気さえ感じた。
それどころか、銀糸までもがぼたりと机にゆっくりと落ちていく。砂時計のように重なっていく固まりには、綺麗というよりはどこか気味の悪いものに見えていた。しかし、そのくせ鼻と固まりを繋ぐ糸が輝いている新種な宝石のように見えてしまう。
そのまましばらく放っておいた。そんな世界に没頭した僕は、机から粒と固まりが落ちない限りティッシュ箱に手を伸ばそうとしなかった。
意味もなく、またそんなやりとりを繰り返していた。その時、僕が涙を流した理由とは何だったかを忘れていた。むしろ、どうでも良くなってきたかもしれない。
この部屋に近付く足音が段々大きくなっていく。音のテンポや大きさで、その主が僕を幻想的な世界へ引き込んだ張本人だとわかる僕がいる。
ドアが開かれた途端、幻想的な世界への更なる通路が見えたような気さえした。更にどん底へ追い込もうとするつぎはぎは、僕を陥れたいのか何かを喋らせては奇妙な屁理屈を述べていく。
そうしているうちに、自分というものがわからなくなってくる。そんな気持ちは先程からあったはずだ。あの銀糸の固まりと同様、自分自身までもが気味の悪いどこか掴めないものだと感じ取ってしまった。
また銀糸について指摘される。すると、僕の中で感じてもなかった怒りが沸いてくる。
僕は涙に遮られた視界のように歪んでいるのだろうか。そして言葉を出せば、涙が離れた時のように視界のごとく揺れてしまうのだろうか。たとえ綺麗なものに例えたとしても、銀糸の固まりのように僕は気味の悪いものに見えているのだろうか。
何故、こんなにも自分の存在に疑問を覚えているのか。これから僕は、再び幻想的な世界の始終を繰り返すことになる。
つぎはぎに後で言っておきたいものだ。僕にしかわからない世界を、どのような屁理屈で片付けようとするのかが楽しみだから。


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