投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

246
【青春 恋愛小説】

246の最初へ 246 27 246 29 246の最後へ

5-4

-----------------------------------------------

どれぐらい経っただろう。

自分の血なのか相手の血なのかも分からないが、右手の拳は赤黒く染まっていた。
歯に当たったのだろう、拳は端々が切れて、痛みの感覚すら無かった。




男子学生二人は、呼吸はしているがまともに動けない状態になっていた。

用具室には、絢のすすり泣く声と、誠の荒い息遣いだけが響く。




「.......誠....くん.....」




絢は、振り絞ってようやく出たであろう、か細い声で呼んだ。
その声で、誠は我に帰る。

振り向いた先に絢を見て、誠は言葉に詰まった。




ボタンが飛ばされたブラウスは下着が見えるまでにはだけ、乱された髪で見えにくいが頬には痣もある。

自分が知っている、いつも笑顔でじゃれてくる絢ではなかった。




「.....あっ....絢ちゃん.....」

「............誠くん.....ありがとう....」




その震えた声に、誠は何も言えなかった。
息をすることさえ阻まれた。




少しずつ、歩み寄る。

絢に起こった事態。
想像するのも嫌になる。

表情を失った絢を前にして誠は涙が出そうになったが、必死に耐えた。




自分のブレザーを脱いで、努めて優しく絢の肩に掛ける。
触れた絢の肩は、小刻みに震えていた。




「.......うぅ......」




絢は、誠の胸におでこを寄せて、そのままへたり込んでしまった。
無言で絢を抱きしめる。

何も声を掛けられない、ただ抱きしめることしか出来ない自分に、誠は怒りと憤りを感じた。




「絢ちゃん.....」




泣き崩れた絢を、優しく撫でる。

誠は、自分の後ろに立つ影には気付かなかった。


246の最初へ 246 27 246 29 246の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前