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大陸各地の小さな話
【ファンタジー その他小説】

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プライスレス・プレゼント-4

 ***

 ヴェルナーと別れ帰宅すると、意外な光景がサーフィをまっていた。
 なんとヘルマンは鞄にせっせと荷造りをしていた。上着も白衣から、外出用の黒いコートに着替えている。

「ヘルマンさま……?あの、どこかへ……?」

「ああ、急ですみませんが、今からロクサリスに行って参ります」

「え!?」

「あちらの女王陛下から、錬金術ギルドに急ぎの注文が参りましてね。少々難しい品ですので、一週間ほどかかりそうです」

「は……はぁ、そうですか……」

 フロッケンベルクと隣国ロクサリスは、昔から険悪な仲だったらしいが、今のアナスタシア女王が即位していらい、比較的友好になってきたそうだ。
 数年前、人狼や周辺国の大襲撃があった際も、ロクサリスはフロッケンベルク側に付き、周囲を驚かせたらしい。
 そんな隣国の女王相手なら、多少の無理を聞くのは当然かもしれない。

 へにゃぁぁと脱力しかかる身体を、サーフィは必死で起こす。

「サーフィ?何かまずい事がありましたか?」

「い、いえ……」

 ヘルマンのことだ。自分の誕生日を忘れているのではなく、大したことではないと気にもしていないだけだろう。

 一瞬、急いでもう一度プレゼントを探しに行こうかと思ったが、ヘルマンの様子では、今すぐにでも出かけてしまいそうだ。
 せめてこれだけ言おうと、サーフィはそっと後ろから声をかける。

「一日早いのですが……お誕生日おめでとうございます」

 荷造りをしていたヘルマンの動きが、ピタリと止まった。

「今年こそ、きちんとした誕生日プレゼントを買いたかったのですが、貴方が何を欲しいか、どうしても解らなくて……」

 そこまで言ったところで、やっとヘルマンは振り向いた。
 眉を潜め、怒っているようなこの表情だ。だがこれが、本当はどんな心境を表しているのか、サーフィはちゃんと知っている。

 素直でない氷の魔人は顔を赤くし、拗ねたように口を尖らせる。

「シシリーナで君が毎年くれたプレゼントも、とても素敵でしたよ」

「でも、あれは……」

「君を一度手離したあとも、僕は未練がましくカードを捨てられませんでした。今も全部取ってあります」

 ふわりと幸せそうに口元を緩めたヘルマンに、抱き締められる。そのまま耳元で、甘く囁かれた。

「サーフィ、キスをしてください」

「……え?」

「欲しいプレゼントを頂けるのでしょう?」

「え、ええ……」

「君は酔っ払うとなかなか積極的ですが、シラフの時にはしてくれませんからね」

 少々イジワルな囁きに、今度はサーフィの顔が真っ赤になる。
 心臓を壊れそうに動悸させながら両手をヘルマンの頬にそえ、ひんやりした唇に自分のそれを重ねた。
 軽く重ねるだけのそれを、促されるまま段々と深くしていく。
 頭がぼぅっとして立っていられなくなる頃、ひょいと抱き上げられた。

「ふぁ!?あ、あの……?」

「ロクサリスに行くのは、誕生日のごちそうを食べ終わってからにします」

「ごちそう……?」

「君に決まっているでしょう」

「!」

 *** 
 
 寝室で蕩かされながら、サーフィは思い知る。

 ヘルマンがよく言っていたとおり、世の中はギブアンドテイクだ。
 どれほど無償に見えたとしても、そこには見返りが存在する。
 プレゼントの代償を、サーフィもちゃんと得ているのだから。


 ヘルマンという人間が生まれた事を喜び、その数奇な人生を経て出会えた事に感謝するため、サーフィは今日この日を祝う。

 誕生日おめでとう。
 私の得るとびきりの報酬は、貴方の幸せです。




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