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『由美、翔ける』
【スポーツ 官能小説】

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『由美、翔ける』-5

「みんな、ごめんなさい。足の状態が悪いこと、ちゃんと伝えなかった、あたしがいけなかったんです。本当に、ごめんなさい」
 退院した後、松葉杖をつきながら部室に現れた桜子は、真っ先に皆に深々と頭を下げていた。
(違うのよ……悪いのは、わたしなのよ……)
 しかし本当なら、由美がそれをしなければならないことだと思っていた。チームのキャプテンとして、メンバーの体調管理にも目を光らせていなければならなかったのに…。
 アキレス腱を断裂した桜子は、加療に1年近くを要したため、バレーボール部には籍を置き続けたが、引退するまで、結局コートに戻ることはなかった。
『女子バレーボール界の至宝・蓬莱桜子、無念のアキレス腱断裂』
『蓬莱桜子の復帰は絶望的。女子バレー界は“太陽”を失う』
 スポーツ雑誌にも大々的に取り上げられた、蓬莱桜子のアキレス腱断裂は、由美の心にも大きな傷跡を残した。
 ただ、救いだったのは、桜子本人がその陽気を失わず、足が悪い中でも、マネージャーとしてチームを裏方から支え、そんな桜子の陽気に引っ張られる形で、彼女の世代のメンバーが3年生になったときに、由美たちがあと一歩のところで逃した“全国制覇”を成し遂げてくれたことだった。
「だから由美も、落ち込むの、もうやめなって。桜子の足のことは、あんたのせいでも、なんでもないんだからさ」
 由美と共に城西女子大学に進み、膝の故障があったため由美とは違ってバレーボール部には入らなかったが、寮のルームメイトとして色々と相談に乗ってくれる桃子は、後輩たちが快挙を達成したその日、そう言ってくれた。
 少しだけ心の軽くなった由美は、1回生のときのスランプを脱して、持ち前のセッターとしての才能を発揮するようになり、2回生になるとレギュラーになった。
 全国制覇のメンバーたちが揃って進学してきた今の城西女子大学バレーボール部は、インター・カレッジでも優勝して、“世代最強チーム”と言われるようになって久しい。
 だが、そのメンバーの中に、蓬莱桜子は含まれていなかった。
「桜子は、双葉大学に行ったみたい。やりたいことが、できたんだってさ」
「……そう」
 進路は本人の意思だ。だが、もしアキレス腱の断裂がなければ、同じコートの上で勝利の喜びを共有していただろう。ひょっとしたら、日本代表としても、一緒に戦うことが出来たかもしれないのに…。
 由美は、日本代表候補にも選ばれて、強化合宿に何度か参加した。ワールドカップの事前親善試合ではベンチメンバーにも入り、試合に出ることもあった。
 だが、やはり代表の壁は厚く、ワールドカップ本戦のメンバーには選ばれなかった。代表選手としての戦力と見るためには、今後の研鑽がまだ必要だと判断されたのだ。
 日本代表の選から漏れたとは言え、順調に、バレーボールの選手として地歩を固めている由美だが、あの“後悔”は常に心の中にあって、それが由美の心を時々暗くさせた。桃子が言うところの、“由美の落ち込み癖”の原因になっているのは、その“後悔”なのである。
 そして、その“後悔”が、由美の“飛躍”を妨げていると言って良かった。


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