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『由美、翔ける』
【スポーツ 官能小説】

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『由美、翔ける』-19

 トランポリンによる跳躍運動を何度か繰り返し、肘を真上に伸ばしながら、上空で両足をしっかりと閉じ合わせる“ストレート・ジャンプ”の形が申し分ないところになった時点で、ひとまず“トランポリン・トレーニング”は終了した。
「一息入れてから、トレーニングルームに行きましょうか」
「そうね。そうしましょう」
「それじゃあ、俺たちはこれで退散するよ」
「お邪魔虫になっちゃうからね」
 トランポリンの使用が終わったことを見計らい、赤坂夫妻は一足先にその場を後にしていた。
「「ありがとうございました」」
 息のあったように、二人に礼を言い述べる、由美と八日市である。
「ふう」
 休憩スペースに場所を移し、スポーツドリンクを口にふくながら、汗を拭う由美。
「………」
 その漂う色香に、八日市は言葉をなくしている。
「……ん?」
「あ、す、すみません」
「うふふ」
 視線に気づいた由美がそちらに目をやると、慌てたように横を向いた八日市の仕草を見つけたので、それが可笑しくてたまらなかった。
「……八日市クン、お二人に“よっくん”て、呼ばれてるのね」
 ふと、赤坂夫妻にそう呼ばれていたことを、由美は思い出す。
「“ようかいち”だから、“よっくん”になったんだと思います。先輩方はみんな、僕のことをそう呼んでいますよ」
「そうなんだ」
 安直この上ないように思えるが、愛称で呼ばれるほどに、八日市が親しまれている証ともいえるだろう。
「あの、わたしも、そう呼んでいい? その、“よっくん”って……」
 運動によって汗を流し、身体の筋肉が活性化していることによって、由美には積極性が生まれていた。とはいえ、顔を赤くしていたのは、男子のことを始めて愛称で呼ぼうとしていることに、恥じらいがあるからだろう。
「や、やっぱり、ダメかしら」
「とんでもない! 存分に“よっくん”と呼んでください、柏木さん!」
「………」
 由美の表情に、喜びの色が現れたかと思ったが、“柏木さん”と呼ばれた刹那、はっきりとした“陰”が差した。
「あのね、よっくん」
「は、はい?」
「わたしたち、その、“おつきあい”を始めたわけだから……」
「え、ええ」
「わたしのことも、“名前”で呼んでくれないと、ダメなんじゃないかな……」
「そ、そうですね! いけませんよね! ゆ、ユミさんっ!」
 滑稽なくらいにそう叫んだ八日市に向けて、“何事か”とばかりに、フロア中の視線が集まっていた。


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