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『由美、翔ける』
【スポーツ 官能小説】

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『由美、翔ける』-15


「柏木さん、ようこそ」
 由美を部屋に迎え入れて、八日市はすこぶる嬉しそうであった。
「………」
 かたや由美は、またしても“汚部屋”に近い状態になりつつあることに、こめかみをわずかに痙攣させていた。
「き、綺麗にしたつもりなんですけどね」
 由美の感じる“綺麗”と、八日市の認識しているそれとには、隔絶の差があることを彼女は思い知った。
「いらないものは捨てる! 使わないものは仕舞う!! 新聞雑誌は、古いものをすぐにまとめる!!!」
 再び、千手観音のような手さばきで、由美は、カオスになりかけていた八日市の部屋を、コスモスで満たしていった。
「これは、要らないわよね」
「あっ、そ、それはっ……」
 “お姉さん図鑑”というタイトルの“ビニール本(エロ本)”が、由美の手に収まっている。
「要らないわよね?」
「は、はいっ」
 いつぞやと全く同じやり取りを、二人は繰り返していた。
「もう…。ほんのちょっと、気をつけるだけで済む話なのに」
 ぎゅ、と“ビニール本(エロ本)”も一緒になった古雑誌の束を、ビニール紐で縛り上げながら、由美はぼやく。
「時々見に来ないと、ひどいことになりそう」
 ごく自然に、そう由美は、口にしていた。
「……あの、柏木さん」
「?」
 部屋の主導権を、由美に渡す格好になっていた八日市だが、不意に真面目な顔つきになって、由美を見つめてきた。
「ど、どうしたの?」
 その眼差しに打たれ、由美は頬を赤らめる。
「その、ですね…。いま、おっしゃってくれたように、よかったら、これからも、柏木さんには、僕の部屋に来てくれないかなあ、と、つよーく思うようになっておりまして……」
「………」
「メールをもらったときにですね、とても嬉しかったのです。それで、ですね、あつかましいとは思うし、急だとも思うのですが……」
 八日市は、眼差しを由美に注いだまま、一呼吸、飲み込んでから、言葉を繋げた。
「僕と、お付き合いしていただけませんか?」
「!?」
 本当に、唐突だった。
「え、えっと……」
 由美は、その願望を淡い気持ちとして胸に抱いてはいたが、相手のほうからこんなにも簡単に、しかも刹那に切り出されてくるとは想像もしておらず、八日市の言葉が、告白として胸に沁みてくるのに時間を要してしまった。
「や、やっぱり、いけませんかね」
 “玉砕”を予感したのか、八日市が自分の発言に後悔の色を見せ始めた。あまりに性急すぎる告白であることは、自覚している彼である。
「僕はその、柏木さんにもう、随分と参ってしまっているのです」
「八日市クン……」
「だから、言わずにいられなかったのですよ」
 出会いのきっかけは、あまり由美にとって思い出したくないであろう出来事だから、八日市自身は、かつて伝えた“忘れてください”という言葉に嘘はなかった。
 だが、それを潔しとせず、気持ちをぶつけてきた由美の姿に、惹かれるものを感じ始めた。あまつさえ、部屋の掃除をしてもらって、しかも、晩御飯まで作ってもらったとあれば、彼の心が由美に傾くのも当然というものだった。
「ですから、あの、お付き合いをして欲しいんですが」
「わ、わたし、ひとつ上のお姉さんだけど、いいの?」
「そ、それは、もう、望むところといいましょうか…」
 八日市が持っている“ビニール本(エロ本)”の、あまりにも偏ったその嗜好を思えば、由美の問いは、言わずもがなのことである。
「あ、あの、わたしで、よろしければ…」
 八日市の物言いにあわせるように、由美は、淑女のような答を返していた。
「こちらこそ、よろしく、お願いします……」
 …こうして、由美と八日市の男女交際は、超速的な展開をもって、その“始まり”を迎えたのであった。


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