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『由美、翔ける』
【スポーツ 官能小説】

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『由美、翔ける』-10

 分別するだけでも2時間余りを要した。
 八日市が言うには、このアパートに越してきたのは最近の話らしいが、それでここまでになるというのは、彼はいわゆる“捨てられない・片付けられない”人間なのだろう。
「……あまりにもだったので、我を忘れてしまいました。勝手なことをしてしまって、ごめんなさい」
「いえいえ。おかげで、部屋が見違えました」
 初対面にも等しい、それも、男子の部屋を我が物のように掃除してしまった由美は、冷静になったとき、己の厚顔さに恥じ入って、俯いていた。
「どうやら、お礼を言わなきゃいけないのは、僕の方になりましたね」
 それでも八日市は、部屋に勝手をされたことを厭う様子は全く見せず、由美の持って来た菓子折りを早速開いて、それをお茶菓子にしながら、欠けた湯飲みを傾けていた。
(欠けてるの、気にならないのかしら)
 そのあたりの無頓着さが、この部屋の惨状を生み出したのだろうと、由美は思ってしまう。
「まだ名乗ってなかったと思います。僕は、八日市時矢といいまして、城東体育大学の、こんど2回生になります」
「あっ、それじゃあ」
「?」
「い、いえ…」
 自分は3回生になるから、彼が浪人をしていなければ、歳ではひとつ上になる。1歳だけの差ではあるが、彼の好きなジャンルである“年上のお姉さん”に、当てはまると一瞬考えてしまって、由美は、そんな自分の浅ましい考えに、顔を赤くした。
「改めてになりますが、わたしは城西女子大学の柏木由美です。来春から、3回生になります」
「えっ、それじゃあ」
「?」
「い、いえ〜」
 相手が“ひとつ上のお姉さん”だと知って、八日市は、由美との出会いに、猛烈な関心を抱いたらしい。それは、由美の気づかないことだったが…。
「あの、八日市さんは……」
「えっと、僕の方がひとつ年下なので、“さん”でなくていいですよ」
「そ、それじゃあ……」
 ひとつ、咳払いをして、由美は言い直した。
「八日市くんは、ゴハンはどうしているの?」
 “さん”が“くん”になり、相手がひとつ下だということもわかったので、由美の言葉尻が、年下の男子に向けるフランクなものになった。そして、それを受けた八日市の表情が、わずかに喜色に緩んだのを、残念ながら由美は見逃していた。
「コンビニに、お世話になりっぱなしです」
「やっぱり……」
 ゴミ袋3つ分にもなったそれは、ほとんどがコンビニ弁当の残骸だった。それに、冷蔵庫を開けたとき、訳の分からない調味料はありながら、ほとんど空っぽというべき惨状も見てしまったので、由美はどうにも、それを放っておくことが出来なかった。
「近くに、スーパーはあるの?」
「ありますよ」
「じゃあ、行きましょう」
「え、えっ?」
「なにか?」
「い、いえ」
 由美の静かな気迫に、またしても八日市は圧倒されて、出かけるために立ち上がった彼女の後ろにつき従う。
「ちゃんと、片づけをしてから」
「は、はいっ」
 テーブルに放置しかけた湯飲みを流し台に持ってきて、由美の言いつけどおりにそれを、きちんと洗い始める八日市。
「………」
 また、やってしまったと、由美は、流し台で湯飲みを洗い、水を切りながらそれを布巾の上に置く八日市の姿を、赤面しつつ見つめるのだった…。


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