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It's
【ラブコメ 官能小説】

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☆☆☆☆-7

翌日、陽向の元へ行くと陽向の両親がいた。
「こんにちは」
「今日も来てくれたのね」
「はい」
「ありがとうね」
「いえ…」
今日、陽向の両親は主治医から病状説明を受ける予定だ。
それまでしばらく時間がある。
両親の提案で病院のレストランで昼食をご馳走になった後、湊は陽向の側に戻り、陽向の両親は面談室に向かって行った。
椅子に腰掛け、眠る陽向の指をいじる。
「手小っちゃ」
「うるさいな!バカにしないでよ!」
いつも怒りながらバカって言われてたな。
もう、そんな小競り合いもできないのかな…。
「陽向…」
湊が呟いたその時、陽向の閉じられた目から涙が零れ落ちた。
心臓が張り裂けそうになる。
「分かる?陽向…俺だよ…」
陽向の目がやっと開いた。
コクンと頷く。
「湊…」
小さな声で名前を呼ばれると、ボロボロと涙が零れた。
湊はその場で泣きじゃくった。
今までにないくらいに…。

その後、両親も泣きながら主治医や看護師にお礼を言い、再度面談をし、明日か明後日には一般病棟に移ることになった。
「息は苦しくない?」
看護師に問われ、陽向はコクッと頷いた。
その日のうちに酸素マスクは外され、明日の検査の結果で点滴の量も減ると言われた。
劇的に良くなっているように見えたが、陽向の口数は少なく、ぐったりしている。
少しだけ話した後、陽向はまた眠ってしまった。
身体が完全に弱っているのだろう。
面会時間が終わるまで陽向の側に座り、湊は意味もなく点滴やらなんやらを眺めていた。
陽向が目を閉じているのを見ると、もう二度と起きないような気がして、見たくなかった。
陽向の両親とともに病院を後にする。
「私たちは、もう明日で帰らないと…」
彼らは福島で老人ホームを経営しているらしく、他のスタッフに任せきりなのでそろそろ帰らないと、とのことだった。
「本当はもっといてあげたいんだけど…」
陽向のお母さんは「でも、陽向の笑った顔が見れてよかった」と涙ぐんで言った。
「湊くん…陽向のこと、頼むわね。色々とごめんなさいね」
「いえ…。俺、陽向になんもしてやれてないですけど、お二人が帰ってからは、俺が陽向の側にいてやります」
湊の言葉を聞いて、陽向の両親は優しく微笑んだ。
「陽向が元気になったら、一緒に福島おいでね」
「ありがとうございます」
陽向の両親と病院の入口で別れ、湊は駐車場に向かった。
空を見上げる。
風が強すぎて、雲がものすごいスピードで過ぎ去っていく。
そういえば、今日は台風が来ると言っていた。
湊は車に乗り込みエンジンをつけると、マンションまで車を走らせた。

台風一過の日、陽向は一般病棟に移動した。
昼過ぎにICUに行くと7階にいると告げられた。
エレベーターで7階の呼吸器病棟へ行き、個室に案内される。
「風間さーん、ご面会ですよ」
「はーい」
看護師が出て行った後「湊だー」と陽向は笑顔になった。
「おう。調子どう?」
「うーん。まあまあ」
「そか。よかった」
陽向はヘラヘラ笑っているが、やっぱり元気がない。
「まだ調子悪いんじゃねーの?」
「ちょっとだるいけど、元気だよ!早くお家帰りたい」
「まだダメだろ。ちゃんと医者の言う通りにしろよ」
「それぐらいできるもん!」
湊は陽向を見てフッと笑った。
と、同時に涙が溢れてきた。
「えっ…湊…。ごめん、あたしなんか変なこと言った…?」
「ちげーよ…」
陽向の前で泣くなんて、かっこ悪くて惨めで情けなさすぎる。
でも、嬉しいんだ。
陽向が生きてて、嬉しいんだよ。
「お前とこんな会話できねーかもって思ってたからさ。呼んでも全然起きねーし。死んだらどうしようって、毎日毎日思ってた。お前のこと見るの辛かったんだよ。毎日ビビってた。今だって、毎日怖えーんだよ。お前がいなくなるかもって思ったら、涙止まんねーんだよ……」
湊は陽向の髪を撫で、「こんな俺でごめんな」と泣きながら笑った。
「湊だって泣き虫じゃんっ!」
陽向は目に溜めた涙を零すまいと必死に笑っていたが、堪え切れなくなって、ポロポロと零れ落ちた。
湊はティッシュで涙を拭うと、赤い目で陽向をとらえた。
陽向はヒックヒック言いながら湊を見つめた。
「湊…」
「ん?」
「湊、湊、湊…」
「なんだよ」
「ずっと…呼びたかったの…」
陽向はわんわん泣いて湊に抱きついた。
優しく抱き締める。
もう、こんな思いはさせない。
俺がずーっと側にいてやる。
一生、守り続けるから…。


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