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野生の悪魔が現れたっ
【ファンタジー 官能小説】

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二つの閃光-6

 鮮やかな紅蓮の長い髪を背中へ流しているその姿は、遠目に見ても幼女と分かる華奢な体つきだ。
 胸と腰回りのみを黒い布で覆った、一見下着しか身に付けていないような出で立ち。
 そして太股まである黒いロングブーツを履いている彼女に、修一は見覚えがあった。

「……クラン?」

 そう、クランである。
 クランは学生アパートの付近の空中に、修一を見下ろすようにして浮いている。
 長い紅蓮の髪の端を広げながら漂わせ、体表に淡い紅蓮の光を帯びているクランの瞳は、同じ様に赤い光を僅かに光らせていた。

「フフフっ」

 軽やかな微笑が修一の頭に響いてくる。
 明瞭に判別できる幼い声色には微かな妖艶が含まれ、何故か恐怖を誘った。

「フフっ」

 またも、頭の中で響いているような微笑に修一は全身を粟立てた。
 更に恐怖心が色濃くなり、肝が冷え、血の気が引いていく。
 カタカタっと僅かに肩を震わせる修一は、視線さえも凍り付かせて右手を前へ差し出すクランを見つめていた。
 そして、クランが右手を握った瞬間。

「っ……」

 修のポケットから硬質なものが砕ける音が漏れ、修一はハッと我に返る。
 体に紅蓮の光を漂わせるクランは修一の知っているクランではない。
 あの憎たらしい関西弁も、子供っぽい仕草も、ご飯を頬張るときの幸せそうな顔も、何一つ見受けられない。
 今修一の目が映しているクランは、他ならぬ恐怖の元凶。
 様子もさることながら、あどけない微笑さえもがそれを助長している。

「フフフっ……キャハハっ……」

 その微笑もやはり直接頭の中で響いてくるようで、修一の恐怖心を煽った。
 寒気を身体中に駆け巡らせる修一は、クランの手を隠すほどの赤黒い光が現れるのを尋常ならない様子で見ていた。
 その光は左右の手に一つずつ現れ、クランが両手を前へ出すと一つに重なり合う。

「……死んで?」

「っ!?」

 驚愕に言葉が出ない修一は、一つに重なった赤黒い光がグッと膨張するを見て、悟る。
 あれは自分に向けられているのだ、と。
 しかし震えのあまり足が言うことをきかず、まるで金縛りに遭ったかのように動けないだった。
 そうしている間にも赤黒い光は大きな球体へと変わり、人一人は優に取り込めるほどにまで膨れ上がっていく。
 そして、放たれた。
 修一に迫る大きな光。
 煌々と輝く球体が、修一の視界を埋めていく。
 何が起こっているのか一つも分からない修一は、ただ“死”というものを覚悟する。
 しかしそのとき、修一の頭上から別の光の球体が赤黒い球体に衝突し、進行を食い止めたのだった。

「うわあああっ!」

 大きな衝撃による強い突風に煽られた修一は、電柱に強く頭を打ち付けていた。
 赤黒い光を食い止めた球体は黄色く発光し、二つの光は一つに重なりながら凄まじい衝撃波を広げている。
 その勢いに圧倒される修一は、強く頭を打ち付けた影響で意識が遠退くのを感じながら、目の前に降り立った何者かの後ろ姿を視界に捕らえていた。

「鎮まってください!」

 修一の前の誰かが叫ぶ。
 背中に白い大きな翼を伸ばしている、その後ろ姿。
 強風に黄色い長い髪を乱されてなお毅然として立っている彼女は、白い服に身を包んでいた。

「だ……誰だ……?」

 修一は何とか声を振り絞るも、ふっと意識を手放してしまった。



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