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魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

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35 おうじさまのくれたもの *性描写-4


***


「……本当に良かった」

 寝室で二人きりになり、カティヤが忘却薬を飲んでいたことを告白すると、アレシュは深い溜め息をついた。

「良かった?私を怒らないのですか?」

 信用されなかったと怒るか、少しくらいは責められると思っていた。

「飲まなければ、あの場で殺されてただろうな。そうしたら元も子もないだろう」

「そういう考え方もありますか……」

「他にどう考える?かよわい三歳児に、古だぬきの大臣へ勝てと要求するほどバカに見えるか?」

「……いいえ」

 ほっとしたせいか、全身からヘナヘナと力が抜けていく。
 広い寝台でアレシュと向かい合わせになったまま、肌触りの良いシーツにペタンと座り込んでいた。
 ここはもう封じ石の部屋ではなく、ごく普通の寝室だ。カティヤがいる限り、アレシュにあの部屋はもう必要ないのだから。

「そんなどうでもいいことより、俺はもっと重要な悩みがある」

 ひどく真剣な顔で告げられ、ドキリと緊張が走る。

「どうかなさいましたか?」

「ここは寝室で、初夜で、目の前には好きな女がいる。抱きたいんだが、無理に抱いて泣かせたくない。……これ以上の悩みは、そうそう無いと思うぞ」

 そっと伸びてきた手に、頬をスルリと撫でられる。幸福感がじんわりと浸透し、口元が勝手にほころんだ。

「アレシュさまを信用しております。ですから、私のことも信用してください……貴方に抱いて欲しい」


 
――灯りを落とした寝台の上で、アレシュに抱き締められる。
 薄絹ごしに暖かな体温と鼓動を感じ、心地よさに目を閉じた。

 ゆるく舐められた唇がほどけ、舌を甘く噛まれる。
 薄いドレスがそっと脱がされ、素肌を直接なぞられると、ゾクリと肌が粟だった。
 気絶しそうなほど心音が高まっているのに、嫌悪は微塵も感じない。
 カティヤも手を伸ばして、素肌のアレシュを抱き締める。
 遮るもののない素肌同士がこすれあい、眩暈がするようほど甘美な陶酔に、吐息が零れる。
 奇妙に上擦った切れ切れの声が、溜め息のように出て行くのを止められない。
 胸のふくらみを揉まれ、先端を吸い上げられると、勝手に背が反って高い声が出た。
 息が荒くなり、もっともっとアレシュの体温を感じたくて、夢中で肌をすりつける。腰の奥に甘い疼痛が溜まっていく。
 はっきりと欲情されているのを感じた。
 女として見られ、身体をつなげたいと望まれ、口で手で全身で愛撫されていく。
 すっかり敏感になった身体をまさぐられていくと、時おり身体が快楽に跳ねる。嫌かと尋ねられるたび、羞恥と高まる熱で真っ赤になった顔を横にふる。
 もっと触れて欲しい。
 もっともっと欲情し、求めて欲しい。

 身体の芯が溶けていき、熱く疼いたそこまでも、初めて自分から触って欲しいと思った。
 体内を埋める質量と、のしかかる重みに体温が急上昇し、汗が吹き出る。
 初めてに等しい行為は、やはり苦痛が交じり、違和感と押し広げられる痛みに眉がよる。
 汗で額に張り付いた前髪をかきあげられ、愛しさの籠もる口づけをされた。

「カティヤ……カティヤ……」

 昔のように、それ以外の言葉を知らないように、アレシュが繰り返す。
 薄っすら目をあけると、魔眼に刻まれた金の模様が、暗闇でもかすかな光を放っていた。
 それでも魔眼にはもう、身勝手な凶暴さは残っていない。
 両手でアレシュの顔を引き寄せ、額をあわせる。

 ジェラッドを発つ少し前、キーラから聞いた。
 魔眼の血と飛竜の血は似ているそうだ。その魔力を取り込んだからこそ、飛竜たちはカティヤを受け入れてくれたのだろう。

 やっぱりなにもかも、おうじさまが、ぜんぶくれた。



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