告白1-4
恐る恐る振り返ると、背中を丸めて寒そうに縮こまっている土橋くんが不機嫌そうな顔で立っていた。
……来るの、早いよ！
あまりに驚いて言葉を失っている私に彼は、
「何バケモンでも見たような顔してんだよ」
と、小さく笑って見せた。
私は驚きのあまり、身体を強張らせたままだったけど、彼の困ったような笑顔が少しだけ緊張感をほぐしてくれた。
と、同時に郁美の顔を思い出すと、私は慌ててコートのポケットに手を突っ込んだ。
「土橋くん！ 私ね、郁美から……」
まくしたてるようにしゃべり始めた私に、彼は右手をあげて制し、
「ああ、ちょっと待って。喉乾いたから何か買ってくる」
と言い残し、一人でスタスタと店内に入って行った。
彼が店に入り、一人になれたことで、いくらか平静さを取り戻せたような気がした。
外から彼の様子をチラチラ見てみたけど、私の登場に特段驚いた様子も、動揺した様子もなく、いつも通りの立ち振る舞いに見えた。
かたや私は彼に会えて、声が聞けて、話しかけられて、密かにテンションが上がっているのに。
明らかな彼との温度差に、小さくため息が出る。
程なくして、彼は店を出て私の元へ歩いて来た。
缶コーヒーを一つだけ持った彼は、
「それじゃ、場所変えるか」
と、素っ気なくそう言うと、先にスタスタと歩き始めた。
土橋くんの大きな背中を数歩遅れて歩きながら見つめた。
少し猫背な所、かったるそうに靴を引きずる歩き方。
楽しく笑い合っていた頃の彼と何も変わってない。
あ、でも髪が伸びたかな。
こないだは気付かなかった彼の小さな変化を見つけ、少し嬉しくなった。
あまり手をかけていなさそうな無造作な短髪が、ほんの少しだけ長くなった気がする。
でも彼の髪が伸びた分だけ、私との距離は広がったのも事実で。
今さらながら、口を聞かなかった時間が、まるでおやつを食べ損ねた子供のように、名残惜しかった。
友達だったあの頃から置いてけぼりにされた私は、唇を噛み締めて少し前を歩く彼の足取りをボーッと見つめていた。
でも、彼はそんな私に気づくわけもなく、何も言わないまま歩き続け、やがて小さな公園が見えてくると、
「ここでいいや」
と独り言を言ってから、中へ足を踏み入れた。