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「水槽」
【その他 官能小説】

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「水槽」-1

シャワーを浴びに行った彼女は、まだ戻ってこない。
煙草をふかしながらテレビを見ていた俺は、ソファから立ち上がると、様子を見にバスルームへ向かった。でも、何となく想像はついていた。
浴室からは何の音もしない。一応ノックをしてみるも、返事が無いのでドアを開けてみる。
水蒸気の霧の中に、広い浴槽。その中に彼女はいた。
細い手足を伸ばして熱い水につかる彼女は、やっぱり夢の中にいる。浴槽の縁に小さな頭を乗せて、うとうととまどろんでいた。
俺は溜め息をついて、彼女をそっと揺り動かす。
彼女の悪い癖だ。お湯につかっていると、彼女はそのまま睡魔に襲われてしまう。
危ないからと、何度も注意しても駄目だった。
「意識が溶けるみたいに、眠りがやってくる。お湯と一体になるように、眠りに落ちるの」
彼女はそう言っては、いつも一時間はバスルームから出て来ない。
最初は、溺れているのじゃないかと酷く心配したものだった。
何度か揺り動かしても、彼女が起きる気配は無い。諦めて、俺は服を脱ぎシャワーを使った。
熱い湯が新しい水蒸気を作り、バスルームを白く包む。息を深く吐き出すと、濃い霧が踊った。
水滴が跳ね返り、そのうちのいくつかが彼女の頬に落ちる。屈み込んで、その頬に唇を寄せた。
額に張り付いた前髪をかき分けてやると、彼女が漸く目を覚ます。ぼんやりとした眼差しで俺を見つめている、その表情に苦笑して、また頬にくちづけた。
彼女が手を伸ばし、俺の腕に触れる。
「来て」
誘われるまま、浴槽に身を沈める。熱い湯が身体に心地いい。
浴槽の壁にもたれて深く息を吐き出すと、彼女がそっと寄ってきて俺の胸に背中をつけた。剥き出しの肩が冷めないように、引き寄せて抱き締める。
熱い湯温と彼女の体。俺の腕の中でおとなしくしている彼女は、体に回された俺の腕を取り指を滑らせ遊んでいる。
小さな明かり取りの窓から、外の日の光が入り込んでくる。午後の陽光がキラキラと水面に反射して、浴槽に複雑な影を作り出した。外は今日もいい天気だろう。
濡れた後ろ髪をかきわけて、白いうなじに唇を這わした。静かな水音に耳を澄ましながら。
唇や舌が触れる度に彼女は小さく溜め息をついた。その吐息が漏れた場所に、印をつける。忘れないように、強く。
柔らかな肌が紅く染まる。その色を眺めながら彼女に触れた。胸の膨らみに手を伸ばし包み込むと、ゆっくり手を動かす。その柔らかさに、自分の腰に熱が溜るのがわかった。
瞳を閉じて行為を受け入れていた彼女は、俺の変化に気付いたようだった。もたれていた体を少しずらして、頬を俺の胸に付ける。そのまま俺に触れた。
彼女の細い指が形を確かめるように俺に触れていく。その熱がゆっくりと体にまわる。
俺の胸に唇を寄せ、彼女は小さく囁いた。
「…したいの?」
白い掌に包まれ、ゆっくりと動かされて、俺は息を一つついた。
「うん」
彼女が俺の胸で微笑んだのがわかった。何故か悔しくて、俺も彼女に手を伸ばす。胸から腰へ、そして中心へ。
熱い湯とは違う、彼女の熱が俺の指に触れた。ぬかるみに指を忍ばせ、そっと動かすと彼女の体がそれに応えた。
「したいの?」
指の動きを止めないで逆に聞いてやる。
少し息があがった彼女は、俺の胸から顔を上げると首に腕を回してきた。
「…うん」
俺の耳に囁くようにそう言うと、彼女は耳たぶに歯をたてた。鈍い痛み。
体を離した彼女は微笑んで俺を見つめた。唇を俺の額につけると、ゆっくりと俺に跨る。そのまま熱い胎内へと導かれた。
彼女の眉間がひそめられ、息を深く吐き出して俺にしがみつき震えた。暫くの間動かずに、彼女の熱を感じていた。
熱に染まった頬を両手で挟み口づけを贈る。それを合図に彼女はゆっくりと動き出した。
快感が腰から全身へと巡っていく。俺の上で踊る彼女の胸に顔を埋めて抱き締めた。
水が動きに合わせて跳ねている。彼女と共に。彼女の甘い声が浴室に響く。
見上げる彼女の姿は、とても美しい生き物。目を細めてその光景を焼き付けた。
このまま時が止まればいい。光の水槽の中で。

〈了〉


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