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魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

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24 輝く石の国-4


 ほどなく満天の星空となった。
 華やかな楽団の音色と、宴のざわめきを遠くに聞きながら、カティヤは冑とマントをつけ、裏門の警備に立つ。
 裏門の警備はナハトとカティヤだけだが、そこから王宮に続く道には、まだ何人も警備兵がいる。
 何より、飛竜と竜騎士が一組いれば、たいていの不審者は侵入をあきらめる。

 鉄製のつる草模様をあしらった裏門は、もっぱら使用人の出入り口だ。
 そして今、使用人たちは王宮内でせわしなく働いている。
 辺りに人気はなく、整備された無人の砂利道と両脇の茂みを、外灯が明々と照らしていた。
 夏とはいえ夜風は涼しいが、マントを羽織る正装では暑いくらいだ。
 広間の楽団と競うように、虫たちが音色を響かせる中、彫像のように立っていたカティヤは、背後の音に素早く反応し振り向いた。

「カティヤ、交代する。先にメシ喰ってこいよ」

 もう一人の副団長ディーダーが、自分の飛竜を連れて歩いてきた。

「いいのか?去年も私が先に休憩したぞ」

 なんだかんだ言って、騎士団の面々はカティヤに甘い。
 少々気が引けていると、騎士団で一番背の高いディーダーは膝を折ってゴーグル越しの視線を合わせ、冑を突っついた。

「先に行って、俺の分も確保しといてくれよ。ベリーパイは絶対な。あとは……『ファニー姉御の鶏』以外ならなんでも」

 『ファニー姐御』は、シュテファーニエ女王の愛称。
 ジェラッドでしか通じないジョークに、カティヤも笑った。ベルンと同年台の彼は、いつも陽気なもの言いをする。

「了解した、ディーダー副団長。ベリーパイは死守する」

 建国祭の前夜は、どの家庭でもご馳走だ。
 メニューは家の裕福度にもよるが、ゆでたジャガイモ、パン、数種類のチーズ、川魚の煮付け、甘く煮たニンジン、子牛のステーキ、子豚の丸焼き。蜂蜜をかけたケーキに、ベリーパイ、卵をたっぷり使ったプディングなど……。
 数々のご馳走の中、ジェラッドで一般的な食材・鶏だけは決して使われない。
 あれは『食卓に乗り切れなかった』のだ。
 すなわち『ファニー姉御の鶏』は、存在しないご馳走の意味。

「では、お言葉に甘えさせて貰う」

 ナハトを先に厩舎へ連れて行き、餌箱をいっぱいにしてから、食堂へと足早に向かう。
 中庭をつっきる途中、大広間の窓の前を通りかかった。
 各窓の前には鎧を着た警備兵が立っているが、それでも大きなガラス窓からは、大広間が良く見える。

 大広間はジェラッド王宮で最も豪華絢爛な場所だ。
 庶民の家が四軒は入りそうな広さで、金泥の壁を信じがたい量の琥珀が飾っている。
 そこへさらに華やかに着飾った貴族の姫君たちが押し寄せ、ドレスと宝飾品の見本市のようだった。

 男性客の方が多いはずなのに、女性客ばかり目だつのは、高く結い上げた髪型と、大きく広がるドレスが流行して、縦にも横にも女性の幅が広がるせいだ。
 舞踏曲にあわせ、色とりどりの絹が優雅に揺れる。無数の宝石飾りが乱反射し、カティヤは眩しさに目を細めた。

「カティヤ副団長?どうなさいましたか?」

 警備兵の一人に声をかけられ、カティヤは我に返った。
 いつのまにか、背伸びして大広間の様子へ目を凝らしていた事に気付く。

「い、いや、その……今年も盛況なようで、何よりだ」

 あわてて言い繕い、赤面した顔を見られないよう、急いで立ち去った。

(まったく、まったく……!)

 熱をもった頬をペチペチ叩き、自分を叱咤する。

――アレシュを見つけたところで、どうするつもりだったのだ。

食堂に駆け込むと、長い木のテーブルは、御馳走できしみそうな程だった。
 先に交代した騎士や兵士たちが、大ジョッキに満たした麦酒で、祝杯をあげている。
 ここでは水よりも麦酒のほうが安いくらいで、職務中の食事に麦酒を飲むのも普通だが、それで泥酔するような事もない。
 根っからの国民でないといえ、カティヤも酒は強いほうだ。
 大ジョッキは控えたが、陶器製のゴブレットに麦酒を注ぎ、建国の祝いと歴代の王たち……中でもとりわけシュてファーニエ女王に敬意を込め、乾杯する。

「炎と鉄の恵みに感謝を!輝く石《マーブル》を磨くジェラッドの未来に、栄光あれ!」

 杯が打ち合わされ、泡だつ金色の麦酒が雫を散らす。
 談笑しながらご馳走を食べ、もちろんベリーパイを手に入れる事も忘れなかった。
 食べ終えると、再び裏門の警備に戻った。
 ナハトも真面目に警備をしつつ、上機嫌なのが一目わかる。建国祭のご馳走にあやかるのは、飛竜も同じだ。

 やがて日付が変わる頃、王宮の宴はようやく終焉となった。
 音楽が消え、帰路につく貴族の馬車が正門から列を成す。



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