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三叉路 〜three roads〜
【学園物 恋愛小説】

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返却-2

昇降口には人の姿はどこにもなく、自販機のモーター音だけがやけにはっきり響いていた。


昇降口は湿った空気が籠もっていて、窓やガラス戸は結露でいっぱいだ。


暖房のきいた教室とは違い、ここは吐く息が白いほど寒い。


紙袋をチラッと見てから、ビニールの袋にしたらよかったかなと少し後悔した。


しかし、チャンスは今しかないとゴクリと生唾を飲んで気を取り直すと、土橋くんのロッカーの前に立ちはだかった。


手が震える。


借りてた物を返すのだから悪いことをしているわけじゃないのに、緊張感がほとばしる。


万引きするときってこんな気持ちなのかな、なんてどうでもいいことを考えながら、目をギュッと瞑って彼のロッカーを一気に開けた。


ゆっくり目を開けると、かかとがすり減ったローファーがデンと下段に置かれていた。


今日はみぞれが降っていたから、ローファーに少し泥がついていた。


私は紙袋を小さくまとめ、それが濡れないように、上履きを入れるスペースである上段に無理矢理押し込め、急いで扉を閉めた。


任務完了。


ブラウスの襟元をグッと握り、ホウッと息をつく。


「えっと次は……ジュースか」


私は小さく独り言を言いながら、自販機の前に歩いて行った。


歩仁内くんからもらった百円玉を入れて、いちごオレを選ぶ。


ガコン、と聞き慣れた音を立てて紙パックが取り出し口に落ちてきた。


続けて自分のお金も入れる。


甘いものが飲みたくて、いちごオレを選ぼうとしたけど、すんでの所で手が止まる。


歩仁内くんと同じものを飲んでいる所を、アイツに見られたら、なんて考えちゃうと、気付いたら大して飲みたくもなかったりんごジュースのボタンを押していた。


教室に戻ると、まだみんな楽しそうにおしゃべりをしていた。


土橋くんもその例に漏れず友達と楽しそうに話をしていたし、相変わらず私が自分の席に着いても、こちらに一切気付かないようで、時折バカ笑いをしていた。


「桃子ちゃん、おかえり」


歩仁内くんがくるりと振り返ってニッコリ笑う。


「はい、いちごオレ」


もはや“桃子ちゃん”にもすっかり慣れた私は、穏やかに微笑んでいちごオレを渡した。


私達はそれぞれ、紙パックにくっついたストローを剥がし、袋から出して紙パックに差し込んだ。


心地よい甘味が喉に落ちて行く。


「やっと今日で補習終わるなあ」


「長かったよねぇ、せっかくの春休みなのに」


「補習始まる前は、だるくて仕方なかったけど、桃子ちゃんと同じクラスでよかったよ」


「……ありがと。私も沙織と違うクラスで心細かったから、歩仁内くんがいてくれて助かったよ」


補習クラスで土橋くんと歩仁内くんと同じクラスになってしまい、当初はハラハラしてばかりだったけど。


でも、気にしているのは結局私だけで、アイツにしてみれば、私が歩仁内くんと話をしていた所で眼中にないのだから、気を揉む必要などなかったんだ。


だから、今となっては歩仁内くんと同じクラスでよかったとやっと思えるようになった。




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