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トリツキ
【ホラー 官能小説】

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そして、最後の夜-1

そのとき、ドアが激しく叩かれて開いた。折角貼ったガムテープもはがれ、開け放たれたドアの外に一人の人影が立っていた。
それは昼間手伝いに来ていた、真奈美と言う少女だった。
「2人とも死んではいけません。私がミツル君を助けます!」
真奈美はコンロを外に運ぶと、僕達から睡眠薬を取り上げた。
「助けるって……まだ真奈美ちゃんは中学生じゃないか?」
「お爺さん、そんなこと言ってる場合ですか? 私はこっそり家から抜けて来ました。終わったらまたこっそり戻る積もりです。
村の誰も3人目が私だと気づきません。お爺さんとミツル君さえ黙っていたならです」
「どうして、孫を助けてくれるんだ?」
「どうしてでしょう? 青年団に美佐さんや芳江さんのことを言わなかったですよね。もしミツル君が約束を守ったなら、助けてやってくれとある人に頼まれたのです」
僕は、その名前を思わず口にしようとしてぐっと堪えた。芳江さんだ、きっと。
「その人はトリツキの秘密を知っています。何故なら霊感の強い人だからトリツキの声が聞こえたというんです。私はその秘密をその人から教えてもらいました。だからミツル君を助けることができます」
真奈美さんは赤いチェックのブラウスに制服のスカートを履いていた。
「お爺さん、だから、私とミツル君の2人にして下さい。必ずトリツキを追い返してみせます」
爺ちゃんは顔を皺くちゃにして泣いていた。そして声を震わせながら言った。
「ありがとう。本当は真奈美ちゃんにこんなことは頼んではいけないんだけど。本当に恩に着るよ。孫を助けてくれたら、なんでもするよ。ところで、パジャマとかの着替えはどうするんだい? 何も持って来てないようだから、こっちで何か用意するかい?」
「それも大丈夫です。何も心配しないでください」
真奈美さんの自信たっぷりの態度に安心して、爺ちゃんは出て行った。
そして真奈美さんと僕は2人きりになった。
真奈美さんは着ているものを脱ごうともせずに僕に言った。
「ミツル君は確か小学校6年生の時にも、ここに来たよね」
「うん……よく知ってるね」
「その前は3年生のとき、その前は1年生のときだったかな?」
「確かそうだったと思うけど、僕は君のこと覚えていないよ。真奈美さんて言ったっけ? 前に会ってる?」
真奈美さんはそれには答えずにニコニコ笑っていた。会ってるのにわからないのかとでも言うように。
そして僕の目の前で髪の毛を掴んで両手で上に引っ張り上げて、チョンマゲにしてみせた。
「あっ……ミフユ」
ミフユというのはその子のあだ名だった。誰も本名で呼んだことはない。いつも頭のてっぺんをきつく結んでチョンマゲみたいにしてるから、時代劇の女侍の名前をあだ名にして呼んでいたのだ。
頭のてっぺんに髪の毛を引っ張り上げるから、眉毛も目尻も上に上がってとってもきつい顔つきになる。
小学校時代は女の子はよく色々な髪形をする。でも中学校に上がるとみんな同じような髪形になってしまう。そのせいで分からなかったのだ。
ミフユはやんちゃな女の子だった。小学校6年生の時、僕と良く遊んでくれたタダシという男の子がいたけど、その子とミフユが喧嘩した。
それで相撲をとって決着をつけようということになって、ミフユは何度もタダシを投げ飛ばした。
とうとうタダシが泣き出したので、僕はかたきをとることにした。
僕はミフユに組み付いて、倒そうとしたがミフユはとても強くてカワズガケという変な技で僕を2回も倒した。
僕は最終手段としてサバオリをしかけた。サバオリというのは相手のウエストに両手を回してがっちり締め付け自分に引き寄せながら相手の体を反らせる技だ。
立ちながらするエビ固めみたいなものだけど、ぴったり体をつけて抱きしめる形になるんだ。
でも女の子って意外と体が柔らかいから、いくら反らせてもなかなか痛がらない。とうとう僕は前のめりになって、ミフユを抱きしめたまま倒れたんだ。
足ももつれてミフユの両足の間に僕は腰を入れたまま覆いかぶさるように倒れたんだ。
するとミフユは力を抜いて急に優しい声で言ったんだ。
「ミツル……もう降参だから、放して……」
その言い方がなんかとっても甘ったるい声だったんで、僕は急に離れて立ち上がった。
ミフユは仰向けに寝たまま、だまって僕をみつめていた。なんだか眼鏡越しに見えた瞼の辺りがほんのりと赤くなっていたのが記憶に残っている。
でも僕はそのときミフユを負かしたんだけど何故か勝ち誇る気にもなれず、タダシの手を引っ張ってそこを引き上げて行ったんだ。
あのときミフユはすぐに起き上がらずにぼんやり空を眺めていたような気がする。
「ミフユだったのか……真奈美さんって言うんだ、本名は」
 


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