投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

鏡張りの部屋
【ホラー 官能小説】

鏡張りの部屋の最初へ 鏡張りの部屋 0 鏡張りの部屋 2 鏡張りの部屋の最後へ

鏡張りの部屋-1

何故いま、私…田嶋冴子(タジマサエコ)がここにいるのか。
今となっては勢いとしか言えないけれど・・・。


ーー千葉県某所。
そこの廃ホテルの入り口前で、梁川充(ヤナガワミツル)と二人、懐中電灯を持って佇む。

「よっし、行こうか!冴子ちゃん」
「…うん」

梁川充は私の手を取り中へ侵入していく。
別に、恐くない。馬鹿らしいと考えているだけで。




※※※※※※※※※※※




「今日胆試し行くけど冴子来ない?」

始まりは大学の講義室だった。友人の須田舞(スダマイ)に話し掛けられたことが切っ掛けである。

「馬鹿馬鹿しい。何で私がそんなところに行かなきゃいけないの?」
「女の子一人足りないのよ〜お願いっ!」

両手を合わせて懇願する舞を私はバッサリ斬る。

「い・や」
「なんでなんでー!?イケメン君も沢山呼んだし。ね?いいでしょ?」
「それで釣られるのはあんたみたいに軽薄な娘だけでしょ。私は男に興味無いから」
「酷いな酷いなぁ!でもそんなこと言っちゃって本当は恐いだけでしょ?」
「うん怖いのサヨナラー」
「ま、待ってよ冴子!ごめん、ごめんってばー!」

ノートと文具を鞄に詰めて、私は講義室から出ていく。もちろん、舞もその後を追ってくる。そしてそのまま私を追い越して進路を阻むと、再度手を合わせて舞がお願いを持ち掛けた。

「今回だけ!ね!?私も美人どころ揃えるって約束しちゃったの!私を助けると思って…ね!?お願い!」
「それはそっちの都合です。私の都合じゃないもの」
「意地悪言わないでよ〜!この前ピノ奢ったじゃない」
「あれは貴女のレポート作成を私が手伝ったお礼、じゃなかったかしら?」
「うわぁん!そうだけど、そうだけどーーっ!」

本当に、馬鹿らしい。
舞も悪い子じゃないんだけどこういう安請け合いするから困り者で、その被害はいつもその周囲にいる人間だ。

「じゃあ、お金!お金返すから!ほら、千円千円!」
「ありがとう、受け取るわ」

先週私が貸した千円を舞は財布から取り出し、それを受け取って私は再び歩き出す。

「ちょちょちょっ冴子!これで行ってくれるよね!?」
「行きませんが?」
「何で!何でよ!返したじゃん!」
「借りたお金を返すのは当たり前でしょ?何それで貸しを作ったみたいにしてるのよ」
「そ、そうだけど、そうだけどーーっ!じゃあ千円返してよぅ!」
「これは元々私のお・か・ね!」
「そうだけど、そうだけど!」

言葉を繰り返し2回言うのがが彼女の口癖だ。
それがたまに可笑しくて笑ってしまう時がある。

「じゃ、じゃあさ!話だけ!話だけでも聞いて!ね!?」

そう言って舞は私の手を引き学生食堂へ向かった。





※※※※※※※※※※※





フロントを抜けて、目指す場所は二階の鏡張りの部屋。
ここは元ラブホテルだったようで、ここが潰れてからその部屋で霊が出ると噂になったそうだ。
ほとほと迷惑な話である。

「足下気を付けてね」
「…」

然り気無く梁川充は私の腰に手を回す。
男の下心は分かりやすい。
ホラースポットと呼ばれる場所で、私が恐怖に脅える女なら或いは有効であったかもしれない。腰に回された手も安心材料になるのだろう。
でも私は怖くなんかないのだ。腰に回された手を自らの手でぺっとはね除けて私はズンズンと奥へ進む。





※※※※※※※※※※※





「いわくつきなのよ、いわくつき!」

興奮しながら話す舞を尻目に、私はティラミスを小さくすくって口に頬張る。
学食の一角で如何にも下らない話を聞きながら、私は一つ溜め息を吐く。

「あのね舞、いわくつきじゃないホラースポットがあったら私が教えてほしいわよ」
「そうだけど、そうだけど違うの!ホンモノの霊が出るのよ!」
「だから、そう言われないホラースポットがあるの?幽霊が出る…はそういう場所の前提でしょう?」
「そうだけど、そうなんだけどぉっ!」

この子に悪気はない。ただ、賢さが足りないだけで。
必死に伝えようとすればするほど馬鹿みたいな言葉がポンポンと出てくる。

「そこに行くと取り憑かれるんだって!コーン!」
「…なに?それって、狐?」
「分かんないけど!分かんないよ!」

手で狐を作って口の部分をパクパクとさせる舞。
本人は至って真面目に話しているんだろうけど、巫山戯てるとしか思えない。

「で?」
「二階のね、鏡部屋!鏡部屋が危ないんだって!そこに出る!」
「ふぅん」
「あ、興味ないふり!?興味ない!?」
「興味ないよ。さっきから言ってるじゃん」
「怖くないの?怖くないの!?」
「恐くないよ。あのさ、あんたも恐いって思うなら行かなきゃいいでしょ?」
「イケメン君!ほら、イケメン君が来るし!ね!?」
「そこかよ」

げんなりする。何でこんな子と付き合ってんだろう、私は。

「まあまあ!そこはいいとして、入ったら絶対言っちゃ駄目な言葉があってね!?」




※※※※※※※※※※※




鏡部屋はすぐ見つかった。
内壁はが殆ど鏡で、それ以外の壁面は赤い塗装をされている。
ところどころスプレーで書かれた悪戯書きが目立つ。
『呪ってやる』だの『死ね』だの・・・暇な輩が多いんだな。

「ここ、か・・・確かに雰囲気あるね、冴子ちゃん」
「これだけ鏡があればね。少しはそんな雰囲気になるよ。私達が沢山映ってるし、そういうのも人の心理として恐怖になるんじゃない?」

男のくせに肝の小さい梁川充の言葉に適当に返す。
ふと、鏡に別の何かが映った。
私は瞬間的に言葉を放つ。


「今の、見た?」



鏡張りの部屋の最初へ 鏡張りの部屋 0 鏡張りの部屋 2 鏡張りの部屋の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前