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雪国の梅花
【純愛 恋愛小説】

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「あの花見をした後、自治会でお花見があってさ。今の嫁が俺の隣で言うんだよ。私、梅の木って嫌い、って」
 俯いていた顔を少し起こし、「何で」とウタを見る。
「いつの間にか咲いてて、いつの間にか散ってて、存在感がない。だってさ」
 花なんてどれだってそんなものではないか、と思ったが、過去に刃を突き立てたとて何も変わらないのだと分かっているし、大人げないから言わずにおいた。それでも何か一言、言っておきたかった。
「私はそういう所が好きなんだと思う。いつの間にかそこにあって、いつの間にかなくなっちゃう。そういうちょっと儚いところとか、好きだな。桜みたいに派手じゃないけど、確実に春を知らせてくれるところも好き」
 ウタは広げた膝に肘をついて、数回頷いた。
「そういえばさ、雀、覚えてる? 蝉取りしてて見つけたやつ」
 私は記憶の迷路をたどって、たどった割には酷く鮮明に脳裏に浮かび上がった、茶色いまだらの羽の色に少し驚きながら「あぁ」と間の抜けた返事をした。

 兄とコウ兄は山の奥にカブトムシを捕まえに行ってしまい、私はウタと二人で蝉取りをしていた。蝉なんて飽きるほどいて、捕まえる気も殆どないから、虫かごを肩から下げて手をつなぎ、ぶらぶらと歩いていた時だった。
 目の前に、わら半紙が風に煽られるみたいに地面からひらり、ひらりとはためく何かを見つけた。その色合いや大きさからして、雀だと分かった。私は即座にウタから手を離し、動く雀に走り寄った。
「ウタ、まだ生きてるけど、何か汚れちゃってる」
 羽をひらひらとばたつかせる雀を地面から拾い上げ、手の平を椀形にして温めるようにして収めた。血が出ているのか体液なのか、とにかく濡れていて、汚れていた。
「猫にやられたのかもな」
 雀は手の平の中で暫く身じろぎをしていたのだが、二人の視線を受けて安心したかのように、次第にその動きを弱くしていき、そして、最期に一度だけ羽を大きく動かしたが最期、動かなくなった。
「ウタ、止まっちゃったよ。どうしよう、死んじゃったよウタ」
 私は必死に涙を堪えようと下唇を噛み締め、ウタの方を向くと、ウタは私の背中をさすった。
「一人で死なないで済んだんだから。俺とちぃが見ててあげたんだから。ちぃが抱いててあげたんだから。雀は多分嬉しかったと思うよ」
 堪えきれなかった涙が双眸から溢れ出て、薄汚れた頬を洗い流す。それを肩口で拭うと、白いブラウスが茶色になった。
「雀と同じ色になったな」
 ウタは私のブラウスを見てそう言い、「埋めてやろう」と笑顔で立ち上がった。
 土なんてそれこそ腐る程あった。あちらこちらに土があった。だけれどウタが「ここにしよう」と言ったのは、祖母の家の庭にある、梅の木の下だった。
「ちぃが好きな梅の木の下に埋めてやろう」
 ウタはスコップも使わず、幼い頃よりは少しごつごつし始めた手で少しずつ穴を掘り進め、雀一匹が入るのに丁度良いぐらいの大きさの穴を掘った。ウタの指先は雀の色をしていた。
 私は手に包んでいた雀を穴の中にそっと落とすと、ウタと一緒に上から土をかけた。
「ちゃんとかけておかないと、猫に掘り返されるからな」
 そう言って土をかけ、上には緑色の葉っぱを数枚、立てた。示しを合わせたように二人、合掌した。ウタは茶色になった手を私に差し出し、私はそれをつかむと、井戸まで歩いて行き雪解け水のように冷たい井戸水で手と顔を洗った。



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