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un.comfortable.
【純文学 その他小説】

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un.comfortable.火曜日-2

私は俗に云う“偽善者”とか“八方美人”という部類に入るのだろうと思う。そしてそこに属すことは、他人に嘘つきな実像の無い自分を映し出す鏡を常に持ち歩きながら、笑顔をふりまき、自分を繕う人間だという事を認めた結論に他ならなかった。
私は本当は認めたくなかった。それに気付いた時、嘘をつかないよう心掛けた。だが、手遅れだった。当に私は自分の中で“私”という迷路に迷っていた。
―本当は、認めたくない。
今でも時々、心の声が虚しく響く。だがそれは私の中でこだますることなく、押し殺された感情の中で埋もれさ迷い行き場を失くした。その結果溢れたのは、下手な作り笑いとその場限りの楽しい会話。私はそんな虚像に曇った心を忘れ、その場限りの安心感に浸った。

放課後の職員室。私はまだ躊躇していた。
―あ゛〜もうどうにでもなれ!
勢いよくドアを開けた。
「あ‥の、数学の谷中先生は‥いらっしゃいますか」
「あぁ、ちょっと待ってね」
答えたのは生徒にダンディーと人気の田墨先生だった。恐らく感づいているだろう。自分も相当な数を貰ったはずだ。まぁ田墨先生ならバレても構わない。
―先生もこの位親しみやすかったら苦労しないのに‥‥
「あの〜どうも出張で今日の午後からいないみたいよ」
「あ、そうですか。どうもありがとうございました」
職員室を出て、私は急ぎ足で階段を降りた。手には綺麗にラッピングされた手作りのクッキー。立ち止まり、
―‥‥明日渡そう
そう思い直して、教室へ戻った。

ガラガラガラッ
勢いよく扉を開け放した私は後悔した。そこには仲睦まじいクラスメイトの姿。仲良く数学を教え合っていた。
―うわ、バッドタイミング‥‥
男の方と目が合った。気まず過ぎる。軽く会釈をすると返してくれた。やっぱ良い奴。女子の人気がバカ高いのも頷ける。
私は机の横に紙袋を吊ってそそくさと教室を出た。あまりの勢いで「失礼しました」と言いそうになり、ここは自分の教室だという事を思い出した。そして勢い余ってドアを物凄いスピードで閉めた。
バターンッ
―マジ何やってんの自分‥‥
二人に心からの詫びを唱えながら静かにドアを閉め直した。そして静かに廊下を歩き、階段を駆け降りた。

外は夕暮れだった。何の鳥か判らない二羽が静かに青紫の空を飛んでいる。最近暗くなるのが少し遅くなった。
―いっけない、今部活の休憩時間だった―
私は体育館へダッシュした。

18時30分。いつもより早い電車に乗ろうとしたら、案外間に合うものだ。窓からゆっくり遠ざかっていく街のシンボルタワー―通称レインボータワーは、青。
―明日雨か‥‥

いつも通りの駅で降り、酔っ払いや変な勧誘の人を追い越す。そして自転車置場の前の信号でいつもの様に引っ掛かった。
遠くの空を仰いだ。星は殆ど見当たらなかった。

いつも通りの完全防備で無事帰宅した私は、少し疲れていた。
―あ〜ぁ、部活なんて入るんじゃなかった。
だったら止めればいい、そう思う。だが今の私にはそんな気力はない。止めた後の人付合いなんて煩わしい以外の何物でもない。それは十分承知していた。後半年―いや4ヶ月我慢すれば、こんな疲れる部活とはおさらばだ。部員とだって‥‥―
―忘れちゃうんかなぁ‥‥
鞄に一杯詰まったラッピング袋。その半分以上が部員からだった。


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