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夕焼けの窓辺
【その他 官能小説】

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第6話-11

紅潮した頬と、薄く開かれた唇から漏れる浅く繰り返される呼吸、適度に筋肉のついたしなやかな胸板、首筋を流れる汗、彼の今の様子全てが、まるで匂い立つかのような色気を醸し出している。
胸が詰まるような息苦しさと愛おしさを感じ、英里は彼の首に腕を回して抱き締める。
圭輔は彼女の頭を優しく撫でると、両手を頬に添えて軽く口付けた。
「恥ずかしいなら小さくていいから、英里の声、聞かせて」
そんな彼の誘うような甘い声に、英里の心はあっさりと侵されてしまう。
先程、声を出すのを我慢していた反動もあり、間断なく嬌声をあげてしまうのだった。
腰を落とす度に、より深く彼のモノが奥を責め立てる。
一度でも絶頂を迎えた体は敏感で、英里の体はぴくぴくと、小刻みに震える。
「も、だめ…ぇ…っ!」
…彼女が達する瞬間は、本当に美しい。
汗の玉が光る額、酸素を求めるように開かれた唇、縋るように潤んだ瞳、眉を寄せて快楽を享受する、その姿。
揺れる彼女の長い髪に指を通しながら、圭輔自身も快楽の波に浚われていく。


深い交わりを終えて、ようやく2人の鼓動が落ち着き始めた頃。
圭輔は、彼の体にぐったりとしなだれかかっている英里の方に目を向ける。
辛うじて身に纏ったままの下着が、妙に淫猥だ。
「なぁ、その下着、今から洗って明日も着けてよ」
「何で…?」
英里は圭輔の方に顔を向けた。
彼のその満面の笑みの裏側に隠された魂胆は何なのか探るように、訝しげな顔を見せる。
「…服の下に、それ着けてるんだなぁって想像すると、いろんな意味で興奮しそ…」
その発言に鳥肌が立って、英里はまだ話の途中だった圭輔の顔面に思わず枕を投げつける。
「へっ、変態…っ!」
ばふっ、とくぐもった音がした後、口を真一文字に引き結んで、目を瞑った圭輔の顔が現れる。
さすがに、不機嫌そうだ。
「…今からもっかい襲うけど、文句言わせないから」
「いや、あの…今夜はさすがにもう無理…」
ベッドから降りてさっさとシャワーでも浴びに行こうとする英里の体を、すかさず圭輔は捕らえる。
「きゃあっ!」
力強く引き寄せられ、英里は驚いて声をあげてしまう。
「全部、英里がさせてんだけど」
圭輔は耳元でそっと囁いた。
もう何度目だろう。見惚れてしまいそうになる程端整なままの彼の顔なのに、たまにとんでもなく人が悪いような笑顔に見えるのは。
「知りませんよそんなの、そっちが勝手に欲情してるんじゃないですかっ!」
英里は内心冷や汗を流しながらも、彼の腕の中でもがきながら減らず口を叩く。
「ふーん、そういう事言うんだ」
その直後、問答無用で、英里は布団の中に引き込まれる。
唇を奪われた後、体を抱き締められる。
「っ!」
3ラウンド目の覚悟を決めた英里は堅く目を瞑る。しかし…
「?」
彼が何もしてこないので、英里はそっと目を開けると、
「……寝てる」
圭輔は、英里を抱き締めたまま、すやすやと気持ち良さそうに寝息を立てていた。
つん、と高い鼻の頭を軽く指でつつく。
全く、人を抱き枕か何かと勘違いしているのだろうか。
英里は、安堵半分不満半分のような思いを込めて嘆息する。
眠っている彼の顔を眺めていると、すごく心が穏やかになる。
一番素直な自分と向き合える、そんな気さえする。
まだ、汗を含んでしっとりと濡れている圭輔の髪に、英里は優しく触れた。
彼が、自分にこんな無防備な姿を見せてくれるのが嬉しくて堪らない。
…思えば、彼は、車で5時間程の距離のこの場所まで連れてきてくれた。その後、水族館にも付き合ってくれたし、先程まであんなに力強く愛してくれて…。
朝から晩まで動きっぱなしで、疲れるのも無理はないなと、英里は少し胸が痛くなる。
自分は与えられてばかりなのに、今日は一人で腹を立てたりして、彼をますます疲れさせてしまったかもしれない。
少し、彼の優しさに甘えすぎていた。心の中で、英里は彼に謝罪と感謝をする。
(とりあえず、私も車の免許でも取るかな…)
何とか圭輔の腕の中から抜け出すと、英里はそんな事を思いながら、再び浴室へと向かった。



―――まだ夜が明けきらない、朝焼けの頃。
海沿いに面した立地の良いホテルの一室、鮮やかな朝日が水平線から昇る様子を、英里は静かに眺めていた。
何故か今朝は早く目が覚めてしまったので、夜明けの瞬間を見たいと思ったのだった。
部屋の中で熟睡している圭輔を起こしたくはない。静かにベランダへと出た。
空はまだ仄暗く、東の空には明けの明星が微かに見える。
手摺に肘をついて、ぼんやりと夜明けの瞬間を待っていると、つい先程夜明けの刻が訪れた。
今は眼鏡を掛けていないため、近眼に加えて乱視とかなり目の悪い彼女の瞳に、新しい朝の光の粒子がプリズムのように分散して、キラキラと映る。
だんだんと水面が光の絨毯を敷かれたように、光り輝いていく。
その神秘的な瞬間を、目に焼き付ける。
真夏とはいえ、まだ早朝のこの時間は過ごしやすい。
爽やかな潮風が、英里の長い髪を弄ぶ。
部屋を覗いて、ちらりと彼の様子を窺うと、ぐっすりと熟睡していて、まだまだ目を覚ましそうな気配はない。
彼は昨夜そのまま眠ってしまったので、裸のままだ。ダブルベッドの真ん中で、逞しい体躯を惜しげもなく晒している。
(まだ、大丈夫かな…)
目覚めた時に自分がいなければ、彼が心配するかもしれないが、少しの間なら大丈夫だろう。
カードキーを持って、英里は物音を立てないようにそっと部屋を後にする。


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