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It's
【ラブコメ 官能小説】

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★★★★★-4

『今日は6月上旬の陽気です。午後から雨も降り出すので、お出掛けになる方は傘を持って出掛けて下さいね♪』
午後から雨か…。
陽向は準備をしながらテレビの声に耳を傾けていた。
今日は待ちに待ったライブだ。
着替えを大きめのバッグに詰め込みながら鼻歌でも歌いたい気分だった。
しかし、なんだか今日は体調が優れない。
いつも使っている小さ目のバッグから吸入器を取り出し、「一応持ってくか」と思い、バッグに押し込んだ。

ライブハウスまでの道のりを歩いていると、交差点で大介と遭遇した。
「お疲れー!」
「あ、お疲れ!今日楽しみだねー」
「今日のライブ、生きて帰れるかな」
「なんで?」
「めちゃくちゃ狭いから」
あれは確か去年の今頃だ。
おぞましい人数の割に合わないほどの狭い箱。
熱気だけでジトジトと汗をかいていた。
「あれはすごかったねー」
思い出し、陽向はケタケタ笑った。
昔のライブの話をしながらライブハウスに向かう。
到着して受け付けを済ませて楽屋に行くと「どーもー!」と坊主の男に声を掛けられた。
ノースリーブから剥き出しになった腕に広がるいかついキャンバス。
殺される…!
ギョッとした顔でその男を見つめる。
「湊がお世話になってまーす」
「えっ…」
陽向がビクビクしていると、その後ろからハーフ顔の男が顔を覗かせた。
「あー、ごめんねごめんね。こいつの見た目こんなだけど、ビビらないであげて」
とか言うそのハーフ顔の男の腕にもガッツリと絵が描かれている。
なんなんだこの人たちは…と思っていると「俺ら、湊と同じバンドなんだけど、わかる?」と坊主頭に問われた。
この間のライブで一緒に演ったが、湊のことばかり見ていたので、正直覚えていない。
陽向が首を横に振ると二人は自己紹介を始めた。
坊主頭が白戸亮太、そしてハーフ顔は岩永ジョージとやはりハーフだったことが判明した。
話してみると意外といい人達だった。
「湊に彼女できたって聞いてさー。しかもこの間対バンしたとこのボーカルっつーからさー」
「そーそー!俺ら一発で当てちゃったよねー!」
「なんで分かったの?!」
「めちゃくちゃ印象的だったから。今日も楽しみにしてるよ!」
亮太とジョージは手をヒラヒラさせて去って行った。

確か湊のバンドはスリーピースだ。
しかし、ありえない程の技術とリズムを持ち合わせている。
そのクオリティを今日も発揮していた。
陽向は、ひしめき合う人混みの中で彼らの演奏に見惚れた。
やっぱり上手い。
演奏を楽しみたいところだったが、空気が重苦しくて途中で外に出た。
少し呼吸が苦しい…。
楽屋に戻り、バッグから吸入器を取り出す。
深呼吸をしたところでドアがガチャっと開き、大介たちが入ってきた。
慌てて吸入器をバッグに押し込む。
「おー。陽向。もう準備?」
「うん、気合い入れないとと思って!」
「ははっ。やる気だねー!」
洋平が楽しそうに言う。
体調が優れないなんて言えるはずがない。
陽向は気付かれないように外の空気を吸いに行った。

今回の出番はトリだ。
狭い場所で円陣を組みいつもの掛け声を掛けた後、ステージへと進む。
前を見ると、フロアは大勢の人でごった返していた。
嬉しい反面、不安が過る。
むせ返るような熱気の中で酸素を探すことに必死になる。
今日は6曲演る予定だ。
演奏が始まり、いつものようにハイテンションで会場を盛り上げる。
MCも洋平と陽向の会話で場は大盛り上がりだった。
大丈夫だ…。
安心し切っていたが、4曲目で陽向の身体に異変が起こった。
今まで出来ていた呼吸が上手くできない。
どうしよう…息ができない…。
陽向はメンバーに悟られまいと必死に笑顔でアイコンタクトを取った。
洋平と海斗が楽しそうに笑顔を向けてくれる。
しかし、大介だけは違った。
自分の異変に気付いて、気にしている。
ここからはもうMCを挟むことなく、突っ走るのみだった。
演奏を止めちゃいけない。
きっと誰もがそう感じたのだろう。
激しく盛り上がる会場も、何もかもが遠く聞こえる。
この音は合っているのだろうか…。
遠のく意識の中でふと思う。
みんな、ごめん…。
大歓声が起こったが、陽向の耳には届いていなかった。
冷めやらぬ歓声を背に裏口へ向かう。
苦しい…苦しい…誰か助けて…。
陽向は胸を思い切り手で掴んで床に倒れこんだ。
「陽向!」
三人が陽向に近寄る。
陽向は意識が遠のくのを感じた。
やばい…どうしよう…苦しいよ…。
「誰か酸素持ってこい!」
スタッフがそう叫ぶ。
間もなくして、口に何かを押し当てられる。
「陽向ちゃん?思いっきり息吐いて」
フワフワする頭で言われた通りにしようとするが上手くできない。
今何してるんだろ…。
目の前が真っ白になる。
「おい!陽向!」
聞き慣れた声がどこからか聞こえてくる。
湊…?


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