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It's
【ラブコメ 官能小説】

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★★★★★-3

昼休みになり、いつものように食堂に向かう。
楓たちとお決まりの席に腰を降ろして昼食を摂っていると後ろから「風間さんってどの子?」と声が聞こえて来た。
振り向くと、見たことない顔の女の子たちが数人立っていた。
他学部の人だろう。
見た目は、なんてことない普通の女子だ。
「…なんですか?」
陽向がキョトンとした顔で問う。
「あなたが風間さん?」
「そーですけど…」
「五十嵐と付き合ってるって本当?」
「え…あ…はい」
何か言われるのだろうか…。
「五十嵐に彼女できたって噂になってたから、どんな子か気になったから聞いただけだよ。看護だよね?」
「はい」
気付いたら自然と話していた。
話を聞いていると、湊は色んな女の子に告られてもことごとく断わっていたため、彼女ができたと聞いてどんな人なのか気になったということだった。
「なんか色々聞いちゃってごめんね」
「ううん。全然」
女の子たちは「じゃ」と言って去って行った。
陽向は大きなため息をついて身体を戻すと、箸を手に取った。
「何か臭う」
女の子たちがいなくなった後奈緒が言った。
「え?」
「きっとあの子、前五十嵐のこと好きだったんだよ。陽向の顔を確認しに来たのかね?」
「どーゆーこと?」
「『わたしの五十嵐様を取るなんて許せない!』的なさ。嫌がらせでもしよーと企んでるかもよ?」
奈緒の発言にみんな爆笑した。
「なにそれーっ!奈緒、少女マンガの読み過ぎじゃない?」
千秋が吹き出したご飯粒をティッシュで取りながら言う。
「わかんないよー?陽向、気をつけな?何かあったら言うんだよ?」
「大丈夫だよー!奈緒ウケる」
「油断大敵だからねー」

授業が終わった後、スタジオに向かう。
ライブを今週末に控え、みんな気合いが入っている。
練習を終え、四人でご飯を食べて帰宅。
お風呂から出ると、湊から着信が来ていた。
慌ててかけ直す。
3コール目で湊が出た。
『あい』
「もしもし?電話ごめんね」
『ん、いーよ。風呂?』
「あはは、正解」
陽向はベッドにごろんと寝転がり、目を閉じながら電話越しに聞こえる湊の声に耳を傾けた。
「今日湊の学部の子っぽい女の子に声掛けられたよ」
『なんて?』
「五十嵐と付き合ってるの?って」
『ははっ。暇な奴らだな』
「色んな人に知られてるみたいだよ」
『噂ってモンは怖いねー』
「ですねー」
二人で笑い合う。
目を閉じているとすぐ側に湊がいるような気がする。
今朝まで一緒にいたけど、もう湊が恋しい。
自分はこんなに人を愛してしまう体質だったのだろうかと自分で自分を疑う。
「湊」
『ん?』
「もう寝る?」
『もーちょいしたらな。お前は寝ないの?』
「寝たいけど…。今忙しい?」
『こんな夜に忙しいわけねーだろ』
湊の笑う声が聞こえてくる。
「じゃあもーちょっと電話してたい。…いい?」
『はいはい』
ニヤニヤしてしまう。
『つーかベッドで寝ながら喋ってんだろ』
「なんで分かったのー!?」
『なんとなく。声が眠そう』
まさにその通りだったので笑ってしまった。
湊には何でもお見通しってことか。
嬉しいような恥ずかしいような…。
寝ぼすけでズボラなところも、お酒が弱くて毎回のようにお酒に飲まれてしまうダサいところも、たまに言う小っちゃいワガママも、湊はいつも「しょーがねーな」みたいな顔して、なんだかんだ言って受け止めてくれる。
五十嵐湊がこんな人だってみんな知らないんだろうな。
『おい』
「…へ?」
気付いたらウトウトしていた。
『電話でのお決まりパターンだな』
「どーゆーこと?」
『お前が眠くなり始めて会話が成り立たなくなるパターン。俺が今映画の話してたの全然聞いてなかったろ』
「えっ!誰と観に行ったの?」
『は。家でDVD借りて観てたんだよ。ほら聞いてねーし。寝るぞ』
「なんで怒るのっ!」
『怒ってねーよアホ』
「アホじゃない!」
こうして小競り合いになるのもいつものパターン。
『はい、おやすみ』
「…おやすみ」
『陽向』
「ん?」
『…やっぱなんでもない。じゃーな』
「へんなのー!…バイバイ」

ボタンを押して通話を切る。
湊は天井に向かって大きく息を吐いた。
「好きだよ」
そう言いたかった。
でもやっぱり恥ずかしくて、そんなクサい台詞言えなかった。
自分が不器用で、いつも陽向のことを「お前」とか「おい」って呼んだり、下手くそな言葉で怒らせたりしていることを、陽向はどう思っているのだろうか。
不器用すぎて笑えてくる。
「いつも彼女いるよな。なんでそんなモテんの?俺にも女を分けろ」
高校の卒業アルバムに雅紀から書かれた言葉。
高校の頃付き合った女の中で、本気で好きになった女なんていなかった。
なんとなく好きかもしれない、という失礼な感覚で付き合った女もいた。
それはいつも追いかけられていたからかもしれない。
でも陽向は違う。
追いかけたいと思う隙もなく、気付いたら追いかけていたのだ。
手綱を常に握っていないと逃げてしまいそうなほど、自由な女。
ずっと手探りで探していたその手綱をついに見つけ出した。
もう離さない。
そう思っていたけど、本当は離れられないんだ。
こんな女々しい俺を許して。


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