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魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

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4 塩の道-5

 
 旅籠の付近は、地獄絵図と化していた。
 腹を引き裂かれた人間が、老若男女の区別なく、そこかしこに転がり、血と臓物を飛び散らせた死体に、リザードマン達がむしゃぶりついている。
 トカゲそのものの顔で、全身は青黒い鱗に覆われているが、二足歩行で身体のバランスは人間に酷似しているのが不気味だった。

「百匹以上はいるかも……」

 これほど大きな群れは、久しぶりに見た。
 しかも、ジェラッドの湿地帯で見かけるものより大きい。
 どれも二メートルはある立派な体格で、中には毛皮を衣服のようにつけている者さえいた。
 リザードマンは凶暴で非常に力が強いうえ、群れを作って集団で襲ってくる。
 そこそこの知能は持っているが、降伏や停戦など求めても無駄だ。

 彼らを突き動かすのは、旺盛な食欲だけ。
 貪欲な腹を満たすまで、相手がどんなに泣き叫ぼうと、殺して喰らい続ける。


 長剣で武装したアレシュが、馬上から指揮しているのが見えた。

(もっと、自分の周りに兵を置かなくては!!)

 上空から見た戦況図に、胸中で叫んだ。
 殆どの騎士を攻撃と民の救助に回してしまっており、アレシュの傍には数騎いるのみだ。
 主将を失った瞬間、その軍の敗北はほぼ決定的になる。
 いくら魔眼があるといえ、リザードマンには、精神系統の魔法がまったく効かない。
 ナハトのように眠らせる事はできないはずだ。

 しかも、高位の魔法使いほど、魔法に頼りがちになる。
 戦場で剣を振るう階級は、カティヤのように魔力の低い者が騎士。
 まったく持たない『蛮族』と呼ばれる奴隷階級の人間が歩兵だ。

 これはどこの国も大抵同じで、アレシュ程の魔力を持っていれば、帯剣している事さえ稀だし、使いこなせる者はもっと少ない。

「!!」

 嫌な予感が的中した。
 数匹のリザードマンが、アレシュ達に襲い掛かる。
 護衛の騎士達が必死に戦う中、アレシュも一匹と正面から対峙していた。

(間に合って!!)

 ナハトを急降下させながら、必死で祈った。
 だが、降下する視界に、信じられない光景が写る。
 アレシュの剣は、相手の首を的確に捉えていた。
 力強い太刀筋で、トカゲの頭部がゴロリと土に落ちる。
 相当な訓練を積んでいなければ出来ない動きだった。

「……すごい」

 口の中で呟き、槍を構えなおす。
 アレシュの背後で棍棒を振り上げていたリザードマンへ、思い切り突き出した。
 胴を貫くと同時に、ナハトが首を喰いちぎり、まずそうに吐き捨てる。

「カティヤ!」

 アレシュが頭上を見上げ、嬉しそうに叫ぶ。

「遅くなりました!」

 苦戦を強いられていた騎士たちも、口々に歓喜を叫び、目の前の敵を倒し始める。

「ボスに近づけない!」

 もう一匹リザードマンを斬ったアレシュが、大声で一方を指した。

「お任せ下さい!」

 リザードマンたちは、突然の乱入者へ怒り心頭だった。
 何匹かは翼で跳ね飛ばされたが、すぐに起き上がる。
 カティヤたちが再び急上昇すると、手当たり次第に棍棒や石を投げつけはじめた。
 それらを避けながら、カティヤは示された方角へ目を凝らす。

 リザードマンにも、各群れを率いるボスがおり、それを殺せば、群れは一度引いていく。
 生き残りから新たなボスが誕生するが、緊急時にはそれが一番早い。

「……あれだ」

 他よりも、更に一回り体格のいいリザードマンが、後方にいた。
 腰周りに毛皮を巻きつけたボスは、引きちぎった人間の腕を喰いながら、時おり仲間へ唸り声をかけている。
 これも珍しく、非常に用心深いボスだった。
 いつでも退ける場所に陣取り、十数匹の部下に護衛をさせている。

「あれくらいの護衛を、アレシュ王子にも持って頂きたいな。先ほどのは心臓に悪かった」

 ナハトに声をかけると、同感という鳴き声が返ってきた。
 そして飛竜は、目標めがけて力強く羽ばたいた。


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