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魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

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2 魔眼の王子-1

「こんばんは。ご機嫌如何かな?婚約者殿」

 いけしゃあしゃあと抜かす男に、カティヤは激怒した。

「誘拐されて、ご機嫌なわけがないだろう!」

 腹立ちまぎれに、手近なクッションを掴んで放りつけた。
 本当は、今すぐ回し蹴りでコイツの首をへし折り、さっさと逃げ出したいところだ。

 しかし、普段のカティヤならともかく、今はろくに力が入らない。
 投げたクッションさえ目標に届かず、ポテンと床におちる。

 男は、あきらかに笑いを堪えていた。

「う……っ、貴方のせいだ!笑うな!!」

「笑ってない……っくく……」

「笑っているじゃないかーーっ!!」

 豪華な寝台にへたり込んだまま、カティヤは悔し涙さえ浮かべ、自分を誘拐してきた男……アレシュ王子を睨む。

「だいたいっ!私は貴方の婚約者などではない!」

「いや。これが証拠だ」

 アレシュが、ポケットから取り出したペンダントを見せる。
 トップについている小さな宝石は、カティヤの瞳と同じ、晴れ空から落ちたような色。
 カティヤの首にかけられると、宝石はぼんやりと光り始める。

「!!」

 急いでペンダントをむしりとり、突き返した。

「何かの間違いだ!!」

 こんなものを拾ってしまったばかりに、とんでもない災厄が降りかかるとは……。


突き出されたペンダントを、意外にあっさりとアレシュは受け取った。

「王族から渡された品を突っ返すのは無礼だと、教わらなかったかな?」

 見下ろすアレシュの口調は厳しいが、その眼には、愉快でたまらないといった感情が垣間見える。
 とても変わった瞳だった。
 黒曜石のような黒の合間に、金色の細かな模様が輪になって瞳孔を取り囲んでいる。
 噂に聞く魔眼だが、禍々しいどころか、奇妙な懐かしさを憶えてしまい、余計にカティヤを混乱に陥れるのだ。
 鮮やかな緋色の髪は前髪の一部だけやや長めで、黒と金の小さな魔石が飾りに着いている。
 細身だが引き締まった長身にまとう衣服は、上着からズボン、靴までも全て黒。
 かっちりした上着の胸元にだけ、金のトカゲを模したストシェーダ王家の紋章が刺繍されている。
 シャープで整った顔立ちだが、口元に浮かんでいるニヤニヤ笑いのせいで、どこか少年じみて見えた。

 敵が有名人で、たった一つ助かるのは、聞かずとも相手を少し知っていることだ。
 アレシュ・ヤン・ストシェーダ。
 確か、年齢は二十五歳……カティヤより五つ年上のはずだ。

「王族だろうと、誘拐犯に尽くす礼儀など、持ち合わせてはいない」

 剣呑な口調で言い返した。

 カティヤも竜騎士団の副団長として、ジェラッド王国で城勤めをしている身。それくらいのマナーはわきまえている。
 末弟とはいえ、アレシュは大国ストシェーダの、れっきとした王子だ。
 彼を立たせて、自分が寝台に座り込んでいるなど、本来なら許されるはずはない。
 これは、王子の魔眼で力を抜かれてしまったせいだと、いいわけも出来るが、口の聞き方くらいは、もっと丁重にするべきだった。

 しかし……

「ナハトはどこにいる!?私の飛竜に、何をした!」

 かけがえのないパートナーである飛竜が、心配でたまらない。



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