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季冬
【その他 官能小説】

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花ノ章-4

 紫苑は、だんだんと自分が感じ始めていることを自覚していた。
最初はただ痛みだけだったそこは、今は何だかもどかしいような感覚がする。
「蘇芳さん、もっと…動いてみて…!」
彼女が見上げた視線の先には、快感に身を任せている蘇芳の顔がある。
体を支える両腕は意外に逞しく、時折漏れる掠れた喘ぎ声、汗ばんだ体。
そんな彼の姿に、無意識のうちに子宮がきゅんと締まる。
そこから先、彼女の思考は途切れ途切れだった。
彼の腰が強く打ち付けられ、今までとは比較できないほどの衝撃を紫苑に与える。
蘇芳は何度も深く彼女を突き上げ、腰を回転させ、彼女の中を擦る。
その度に違う部分が当たり、紫苑は高い声を上げ続けた。
飛び散る汗、絡み合う裸体、愛液によって淫猥な音が奏でられ、独特の香りが漂い…全身で、五感の全てで二人はこの瞬間の高まりを味わっていた。
開かれたまま紫苑の口からははしたなく唾液が零れているが、彼女は気に留める余裕もない。
それに、その姿はとても淫らだがある種の美しささえ感じさせるのだ。
熱に浮かされたように、互いの体を貪る。既に、二人の限界は近かった。
「中に…下さい…」
自分の中に収まっている熱くて堅い塊が、不意に膨張するのを知ると、紫苑はそう彼に告げる。
「ですが…」
「蘇芳さんを全て、感じたい…んです」
もう完全に抑えは利かなかった。蘇芳は紫苑の中に彼の愛情と欲望の全てを注ぎ込む。
蘇芳の肉棒が紫苑の中で大きく痙攣すると同時に、彼女も弓なりに体を反らせて快楽の境地へと達する。
快楽の余韻に身を委ねたまま、彼女の意識は遠い所を彷徨っていた。



 黎明の空が徐々に朱に染まってゆく。今日も晴れそうだ。
紫苑の温もりを感じながら、早めに覚醒した蘇芳は、独り静かにその刻を迎えた。
腕の中の彼女は未だ安らかな寝息を立てている。
幸せそうに眠る彼女の顔を見るだけで、自分も満ち足りた気持ちになる。
絹のように滑らかな彼女の髪を梳きながら、毛先に軽く口付ける。
 彼女と交わる前、多少の背徳感は拭えなかった。
しかし、彼女がこんなに幸福そうな顔を見せてくれるのならば、こうなって良かったのだろう。
―――利己的かもしれないが、そう信じたい。
一生この身に咎を背負い続けてでも、彼女と共に生きていきたいと決めたのだ。
「…蘇芳さん」
「紫苑さん、目が覚めていたんですか?」
「ええ、ついさっき」
軽く微笑んで紫苑は答えた。
彼女の笑顔からは情事の後、初めて迎えた朝で少々の気恥ずかしさも窺えた。
「蘇芳さん、私と…その、こうなったこと、やはり後悔してますか?」
「…いいえ」
 暫く間を置いて、しかし澱み無い口調で蘇芳は答える。
「私もです。父は、私が幸せになってくれればそれで良いと思ってくれていると信じていますから。私を幸せに出来るのは、この世で貴方唯一人だけです」
照れたようにそう告げる彼女がとても愛おしくて、蘇芳は彼女を抱き締める。
「それに、私の良い人というのが蘇芳さんではいけないなんて、遺書には一言も書いていませんでしたし」
悪戯っぽい顔をして、紫苑は蘇芳の頬に手を添えた。
「…そうですね」
 蘇芳の中で、今まで彼を雁字搦めにしていた鎖が断ち切られる音がしたような気がした。
もう辺りはすっかり白み始めていて、暖かな陽の光がすっかり溶けかけた雪に反射して煌いている。
障子の隙間から差し込む朝日が、紫苑には荘厳で慈愛に満ち満ちて感じられた。
二人の心が結ばれたことが幻ではないと実感させてくれる。
 そして、その光に誘われるかのように鳥の囀りが朝の訪れを告げ始めた。
…比翼の鳥…。
そんな言葉が一瞬蘇芳の脳裏を掠める。
 紫苑は自分にとっても唯一無二の存在。もう、きっと彼女無しでは生きられない。
穏やかな瞳で蘇芳を見つめている紫苑。彼女を見つめ返す彼。
同じ想いで結ばれた二人の間に緩やかな時が流れる。
「今朝は、もう少しこうしていていいですか…?」
紫苑が遠慮がちに口を開く。いつもならとっくに朝御飯を作り始めている時間だ。
「そうですね」
蘇芳も、まだ紫苑の温もりを近くに感じながら微睡んでいたかった。
―――床の間に静かに佇んでいる山茶花の花だけが、二人の姿を見守っている。




<完>



 最後まで読んで下さり、本当にありがとうございます。
冬が舞台の、少しでも官能小説っぽいものが書ければ思い、当時手探りで書いてみた話です。
 何だか時代錯誤な雰囲気と登場人物で違和感だらけだったかと思いますが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。


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