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Eプラント
【ホラー 官能小説】

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発芽-1

――発芽


 3日後の午前中。

 いつものように夫を送り出した後、食器を洗って台所を片付け、部屋の掃除と洗濯を済ませたユリは、紅茶をいれてひと息つくと、寝室のドレッサーの隣に置いてある小さな机の前に腰かけてノートパソコンを開いた。
 球根を送ってくれた鈴木アヤメには、届いたその日の午後に御礼のメールを出しておいたのだが、その返信がまだ来ていないのが気になっていた。しかし、受信ボックスにあったのは定期的に送られてくるお知らせメールばかりで、私信はひとつも無かった。
 自分の参加しているガーデニングのSNSを覗いてみても、アヤメの書き込みや発言などは見つからず、ユリは少し落胆したが、昼食を摂るまでの暇つぶしにと、ショッピングサイトを気の向くまま幾つも見て回った。

 そのうちに、この間のセクシー下着を買ったサイトにたどり着いた。

(タカシさん、子供みたいに喜んでたなぁ……)

 アレから夫には抱かれていない。会社から帰宅する時刻自体はそんなに遅くはないので平日でも行為に励む時間がないわけではないのだが、夫のタカシは仕事でかなり疲れている様子で、よほどのコトがなければ求めて来ることはなかった。タカシの健康のことを思えば、ユリの方から無理に誘うこともできず、夜の営みは、もっぱら週に1回だけ土曜か日曜の夜に、という習慣になっていた。
 せめて、今の倍くらいの回数はタカシに可愛がってもらいたいというのが、ユリの本音だったものの、なかなか言い出せないで躊躇ってしまうのがユリの性格の損なところだった。

 あの夜のタカシとのセックスを記憶から呼び起こしながら、ユリは、服の上から乳房に触れ、右手を下着の中へ忍ばせていった。

(……え?)

 指先でなぞったおまんこの温かく濡れた感触に驚いて、思わず右手を引き抜いてみると、中指の腹に愛液がべっとりと付着していた。

(まだ何にもしてないのに、こんな……)

 ちょっと想像しただけで、ここまで反応してしまうなんて。誰に見られているわけでもないのに罪悪感のようなものが湧いて、ユリは、とても恥ずかしい気持ちになった。頬っぺたが急激に赤みを帯びてくる。

 ふと気がつくと、部屋には、熟れ切った果実みたいに甘い香りが立ち籠めていた。息を吸い込んで匂いを嗅ぐと、身も心もじんわりと癒されていくような、ドコか懐かしいような、濃厚で芳しく奇妙な感じのする香りだった。
 香港だか台湾だかの茶館で飲んだハーブティーに似ているような気もするし、タカシとの新婚旅行で行ったバリ島のホテルの部屋に焚いてあったアロマに近いかもしれない、などと思いを巡らせてはみるものの、どちらも決め手に欠けていた。
 この甘ったるい匂いは何だろう? 確か、寝室に芳香剤みたいなものは置いていなかったはずだし、隣に住んでいる人の趣味か何かなのかと思いながらも、お香やアロマ・テラピーの心得があったりするわけでもないユリには、やはり正確な判断がつかなかった。

 行為を途中でやめるにも、続きを楽しむにしても、何だか頭がぼうっとして手足に力が入らなかった。からだが怠くて重くなり、自由が利かなくなっていた。

(どうしちゃったんだろう、わたし……)

 気分転換に冷たい水でも飲もうと思ったユリは、ノートパソコンを開いたまま立ち上がったものの、すぐに両脚を縺れさせ、傍らのダブルベッドの上へ、ドサッと横向きに倒れ込んでしまった。同時に、強烈な睡魔が襲ってくる。ユリは、そのまま深い眠りの中へ堕ちていった。

 目が覚めてベッドサイドの時計を見ると、既に昼の2時をまわっていた。

 リビングへ戻ろうと慌ててからだをベッドから起こす。ベランダ側の隅へ置いてあった例の球根の鉢に目がとまった。土が被っていない頭の部分から数センチほど、緑の指サックのようなものが真っ直ぐ上に突き出している。
 
(あら、芽が出たのね……)

 ユリは、遅めの昼食を簡単に済ませたあと、寝室まで戻り、掃き出し窓をカーテンごと大きく開けて空気を入れ替えた。球根を植えた鉢の土に少量の液体肥料を噴きかけて再びたっぷりと水をやり、太陽の光がしっかりと当たる位置に鉢を置き直した。
 さわやかな風に髪を心地よくなびかせたユリは、さっき、眠ってしまう前に嗅いだ匂いのことなどすっかり忘れて、夕方に買い物へ出かけるまでの間に風呂とトイレの掃除を済ませてしまおうと、いそいそとした足取りでリビングの方へ戻って行った。


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