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俺と彼女の話
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俺と彼女の話-5

 久しぶりに帰ってきた故郷は、変わっていなかった。駅ビルも、駅前公園も、商店街も。そんな町並みを、俺は彼女を探して歩く。義母によると、今日、彼女は外に出ているという。家で待ってたらどうかという提案もあったけど、俺は一目でも早く彼女に会いたかった。……とは言っても何処に居るやら……
 彼女の行きそうな場所を片っ端から調べてみるが、彼女の姿は見当たらない。
「…………はぁ」
 商店街の店を見回りながらため息をついた、その時だった。
「……っ」
 息を呑むような声に、思わずそっちを向いた。
…………彼女だった。
雑踏の中で、こちらを見つめて立ち竦んでいる。
「……ぁ」
 俺が気付いたのを見て取るや、彼女はいきなり身を翻し、走り出した。
「ちょっ、待てよっ!」
 ワンテンポ遅れて、俺も走り出した。彼女の足は意外と早く、今日は朝から半日歩き通しだった俺の足では、思うように差を縮められない。
そんな商店街での追いかけっこが暫し続いて。彼女の行く手に、車道が見えた。丁度トラックが通るところで、さすがに止まらない訳には行かないだろうと思った俺だが…彼女は、速度を落とす様子すら見せなかった。
…………ぇ?
ちらりとこちらを振り返った彼女の目が、やけに哀しそうに見えて。俺は一瞬で、彼女の意思を悟る。俺はあらん限りの力を込めて、追いつこうとする。
彼女が飛び出そうとしているのに気付いたか、トラックがクラクションと急ブレーキの音を響かせた。だが、勢い付いた巨体を止めるには、あまりにも彼女との距離は近すぎる。
 ……っ!!

「……あっぶねぇだろうがこんボケェッ!!」
 トラックの運ちゃんの怒声を、俺は彼女を胸に抱きながら受け止める。片手には標識のポールを掴み。もう片方の腕で、俺は彼女を引き寄せる事に成功していた。
「……すっ、すいません……」
「……ったく……」
 息も絶え絶えな様子の俺に呆れたのか、トラックは再び発進し、見る見る遠ざかる。
「…………ふぅ〜〜〜…」
その後ろ姿を見送りながら、俺は思わずへたり込みそうになる。
「…っと、悪いっ!」
 安堵のため息をついたところで、俺は彼女を抱き締めたままな事に気付く。「発作」が起こるかもしれないので、すぐ離れようとする。
しかし。
「……っ」
 ぎゅっと、彼女が俺にしがみついていた。
「……お前……大丈夫なのか……?」
 彼女は力を抜き、俺に身体を預ける。
「……本当は少し、怖い。でも……貴方が居るって、感じたいの」
 肩の震えが、彼女の不安を表しているようで。俺の行動が、彼女に不安を与えそうで。俺は肩を抱いてやる事も離れる事もできず、ただ突っ立っている事しかできなかった。
「我侭でごめんなさい……迷惑かけてごめんなさい…………」
 ぽろぽろ涙を零しながら、彼女は謝罪する。ぴくりと、俺の中で何かが反応する。
「それでもやっぱり、貴方と居たいの……ごめんなさい……ごめんなさい……」
 見ている者が哀れになるくらい、彼女は謝罪を繰り返す。俺と一緒に居たいと願うだけで、どうして彼女がこんなにまで卑屈にならなければいけないんだろう。どうしてその謝罪に、俺は不快感を覚えるようになってしまったんだろう。
 彼女は、何も悪くないのに。俺は、彼女を……愛しているのに。
「……謝るなよ…ぉ…」
 気付けば、俺は彼女を抱き締めて……泣いていた。
「……ちっくしょう……なんでこんな事に……お前は何も悪くないのに……なんで……」
 思った事が理性のフィルタを通さずに、涙と一緒にぼろぼろと零れた。
「……私だって、判らないよ……なんでなのよぉ……」
 俺達はお互いを抱き締め合い、泣きながら運命を呪った。今まで張り詰めていたもの全部が切れてしまったかのように。
「なんで俺が、こんな目に……」
 俺は彼女が辛い事を、誰より知っていた。だから、自分自身が辛いと言えなかった。
「どうして私が、こんな目に……」
 彼女は、俺に負担をかけている事を誰より知っていた。だから、泣き言は言えなかった。
「俺はただ、お前と……」
「私はただ、貴方と……」
 恨みつらみの籠もった、負の共感。
『一緒に居たいだけなのに』
不健全極まりない共感だけど……俺達はその瞬間、一つだった。


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