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雫〜あさき一般的解釈より〜
【純愛 恋愛小説】

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先ほどまで絶え間なく舞っていた六花が降り積もり、遠くの山は水墨画のような風情を見せ、近くの木々は一斉に白い花を咲かせている。


寒さにかじかんだのだろう。
彼女が指に息をかけて温め始めた。


薄氷を割り進む船の音に混じり、溜息のような吐息だけが聞こえる。

白黒の世界の中に君の頬だけが寒さに紅く色付いて、それだけが場違いな生を感じさせていた。


「やっぱり、寒いね」


なのに君は、それでもどこか笑っていた。


「ああ、寒いね」

「でも、とても、綺麗」

「山紫水明って、こういうことを言うんだろうな」

「山も月も全部白くて、別の世界に来たみたい」

「そうだな」


芸術家の言葉を思い出しながらぼんやりと見とれていたところに、ひとたび、いきなり強い風が吹いた。


風の痛みに袖で顔を覆っていれば


「あ」

と、突然に彼女が声を上げた。

「あれ」


彼女の指差しに従って空を見上げれば、あきらめかけていた十三夜の月が、望み通り雲の切れ間に空高く昇っており、自分の後ろに短い影を作っていた。


この世で、望月の次に美しいと言われる十三日目の月だ。


「これが最後」と見るものは、いかなるものも尚一層美しいと聞くが、この月ばかりはいつでも最上の美しさであると思う。



これが望月であれば、いかなる時もいつかは欠けるものなのだ。

これから完成するこの月こそが、今の僕達には相応しい気がした。



「立ち待ちの月、って言うんだ。あんまり綺麗だからご先祖様は立ったまま月が出るのを待っていたんだよ。それから、僕も」

「どうして?」

「きっと月も旅立つ間、待っててくれるだろうから」



だから、ここで。



手を伸ばして触れた彼女の指先は、雪か氷と紛う程に冷えきっていた。

そっと抱き寄せ、袂から互いの手を差し入れて直に身体に回すと、温もりが少しだけ手のひらに伝わる。


そのまま二人で、何も言わずにただじっとしていた。



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