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スプーン・ポジション
【女性向け 官能小説】

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最低のオトコ-1



『誠に残念ながら、今回は貴意に添いかねる結果となりました。ご期待に添えず大変申し訳ございませんが、何卒ご了承下さいます様、お願い申し上げます―――』


愛想のないコピー用紙に印刷された、くどいくらい丁重な文面。


同じような通知を、今月だけでもう何通受け取っただろう。


幾重ものオブラートに包まれてはいるけれど、端的に言えばそれはつまり「うちの会社に、お前みたいなのはいらないんだよね」という意味であり。


そんな手紙ばかりをこう何十通も立て続けにもらい続けていると、自分は誰からも必要とされていない人間なんじゃないかと真剣に思えてくる。



学生の頃は、テスト直しというのをさせられるのがめんどくさくて嫌いだった。


終わって結果が出てしまったテストを、今更直して丸をもらったところで嬉しくもなんともない―――いつもそう思っていた。


しかし、「百点をとるまで間違いを直させてくれる」ということがいかに有り難いことだったのか、今の俺にはしみじみとわかる。


大人には、テスト直しをするチャンスなんてないのだ。


この数ヵ月間というもの、俺はかなり真剣に就職活動を頑張ってきた。


履歴書の書き方から面接時の一挙一動、果てはネクタイの色に至るまで―――毎回細心の注意を払い、最大限の努力をしてきたつもりだ。


それなのに、ここまでことごとく不採用になるのは、俺のやり方のどこかに何か決定的な過ちがあるんじゃないかと思う。


出来ることなら、不採用通知とともに「俺のどこがいけなかったのか」という詳しい解説書を送ってもらいたい。


実際そうでもしなければ、俺は俺の過ちにずっと気がつかないまま、この不毛な面接地獄から永遠に抜け出せないんじゃないだろうか。



「……どうすりゃいんだよ……」



軽い絶望を感じながら、広げたままの便箋を床に放り出し、俺は汗臭いベッドの上に仰向けにひっくりかえった。


最近キツくなってきたバイトの疲れも手伝って、ひどくネガティブな気分になっていた。


身体に染み付いた揚げ油の臭い。
急場しのぎのつもりで始めた弁当屋のバイトが、今では生活の中心になりつつある。


日中就職活動がしやすいように夜のバイトを選んだのに、最近では昼前からの出勤を頼まれることが増えていた。


どうやら「テラシマ」はここのところ順調に顧客を増やしているようだったが、それが俺にとっては精神的な負担になっている。


バイトをしている間中、『ホントはこんなことやってる場合じゃねぇのに』という焦りが、俺の心の奥底でずっとくすぶっているのだ。


フライを揚げる手際ばかりが上達していく自分がひどく恨めしかった。


「……何やってんだ……俺は……」


白い天井に貼り付いた丸い電灯のカバーの中で、ハエとおぼしき小さな虫が一匹死んでいるのが見える。


明かりを求めてフラフラ飛んでいるうちに、中に入り込んで出られなくなってしまったのだろう。


乳白色の光の中に薄ぼんやりと透けて見えるその小さな死骸が、まるで自分自身の姿のように感じられて、俺は思わず顔をしかめた。

「……はぁ……」


ため息をついて、壁の方にごろんと寝返りをうつ。


「……もっと……真面目にやっときゃよかったなぁ……」


俺と同年代のサラリーマンたちは皆、きっとそれなりの出世をして、ある程度の肩書きや何人かの部下を持っているのだろう。


しかし俺には何もない。
これといった資格もないし、部下を育てた経験もない。


前の会社では営業しかやってこなかった。


かといって――営業マンとしてのスキルが飛び抜けているという自信も――ないのだ。


そんなに長くはなかったが、営業成績が社内でトップだった時代も、一応あるにはある。


しかしそれは、商品の売り込みが優れていたとか、取引先へのフォローが抜群だったとかそういうことではない。



俺はつまり、その――――いわゆる「枕営業」ってヤツをやっていたのだ。





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