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黒猫の話
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黒猫の話-2

痩せて小さかった俺の体は、すっかり大きくなっていた。
相変わらず少女との同居は続いていたし、それが当たり前になっていた。
ある曇った日の事。
今日は何だか様子がおかしい。
いつもは鬱陶しいくらいにじゃれついてくるのに、今日は一度も近寄ってこない。
ただ黙々と家事をこなし、静かに窓際で本を読んでいた。
―何だか調子が狂う。
俺も澄ました顔をして寝そべっていたが、ようやく、少女の考えを悟った。
今日は俺が拾われて丁度一年。
―そうか、もう用無しか。
俺は深い絶望と、ある種の安堵を感じていた。
俺の言葉を理解出来るはずはないが、せめて最後に、別れの言葉を。
俺は少女の傍へゆっくりと歩み寄り、腰を下ろした。
気付いた少女が首を傾ぐ。
―さよなら。
ただ一言、伝えたかった。
俺は孤独を振り切るように背を向けると、ドアへ向かった。
…だが、それは阻まれた。
少女が俺を抱き上げ、体に顔を埋めている。
「―行かないで、緤弐」
―セツジ?
「お前の名前。ずっと考えてたんだよ」
照れ臭そうに笑った。
そのあまりの心地よさに、目眩すら覚える。
俺は潔く諦めた。
どうやら俺は、とんでもない人に拾われてしまったらしい。
泣き虫で、意地っ張りで、寂しがり屋のご主人様。
お前がくれた名前と、窒息しそうな愛の借りを返すまでは、何処にも行かないから、もう泣くなよ。


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