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It's
【ラブコメ 官能小説】

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★★★-2

携帯のバイブが鳴っているのに気付いたのは、駅付近の雑貨屋の前を通り過ぎた時だった。
バッグを漁り、携帯を取り出す。
相手を確認すると、大介からだった。
「はい」
『おー陽向。今へーき?』
「うん、へーきだよ。どーしたの?」
『歌詞、書けた?』
そう言えば、この間の練習の時にもうちょっとで出来ると言ったことを思い出した。
「あ、うん。書けたよ!」
『今から取り行っていい?どこにいる?』
陽向が今いる場所を伝えると『すぐ行く』と言って電話を切られた。
湊との約束の時間まで少し時間がある。
陽向は近くにあったベンチに座って大介を待った。

大介は、10分もしないうちに来た。
「お疲れ。早かったね」
「まーね、近くにいたからさ」
「そーなんだ。あ、はい、これ」
陽向はルーズリーフをファイルごと大介に渡した。
早速取り出してサラッと読まれる。
「お、英詞だ」
「なんかそんな気分だったから」
「いーね。てか陽向、最近なんかあった?」
「え?なんで?」
「んー、なんとなく。可愛くなった」
大介の言葉に陽向は爆笑した。
「なにそれーっ!前は可愛くなかったみたいじゃん!」
「んなことねーよ。最近は前よりもっと可愛くなったってこと」
「あはは。そんなことないよ。変わんないって」
陽向と大介が盛り上がっていると、後ろから「よっ」と声が聞こえてきた。
湊がよそ行きの笑顔をこちらに向けている。
「あれ?この間対バンしたとこの人っすよね?」
「この間はどーもっす。めちゃくちゃ良かったっすよ」
「いやー、そっちのバンドもすげーよかったですよ!あんなクオリティ高いバンド見たの初めてで…。またやりましょーよ」
大介と湊は楽しそうにドラムの話をし始めた。
二人ともドラムとあって会話が弾む。
「そんじゃまた」
湊は手をヒラヒラとさせて歩いて行ってしまった。
「ちょー良い人だよなー五十嵐って。陽向が羨ましい」
「え、なんで?」
「あいつと友達でさ」
「あはは…」
友達とゆーか、なんとゆーか…。
大介には言ってもいいかな、と思ったがなんだか言い出しにくかった。
大介とは高校の頃からの付き合いだ。
男女の仲は友達止りとそうじゃない時がある。
彼とは後者の関係に片足を突っ込んでいたと思う。

あれは高校1年の頃だったと思う。
同じクラスで、風間と桑野で最初の席も近かったこともあり、話す機会も多かった。
その一年間で大介とは仲良くなり、大介と陽向を含めた数人の仲間たちとよく遊びに行ったりもしていた。
仲良しグループの中でも、大介とは特に仲が良く「陽向と大介って付き合ってんの?」とよく言われていた。
「なー、陽向」
「なに?」
2年の冬、学校から一緒に大介と帰っていた時のことだ。
いつもと違う大介の声のトーンに少し困惑したのを覚えている。
「陽向は好きなやつとかいるの?」
「いないよ」
「即答だな」
大介はケラケラ笑った。
「大介は好きな子いるの?」
「ん…いるよ」
「えー!うそー!そんな話聞いたことないよ!誰誰ー?」
大介は立ち止まってはしゃぐ陽向を少し緊張した顔で見た。
「え…どしたの?」
「陽向」
「ん?」
「俺の好きな子…陽向なんだ」
陽向は言葉が出なかった。
まさかそうだったとは思わなかった。
「付き合ってほしい」
大介とは今までみたいに友達でいたい。
でも今ここで断ってしまったら、今までみたいに喋れなくなっちゃうのかな…。
「答えは今じゃなくてもいいから。…待ってる」
頭の中でぐるぐると考えていると、大介は優しくそう言った。
その日、帰った後はその事で頭がいっぱいだった。
次、大介の顔を見たら泣いてしまいそうだ。
あんなに優しくて心の広い人はどこにもいないと思う。
付き合ったらいつかは別れが来るのだ。
もし付き合って別れてしまったら…と、付き合ってもないのに考えてしまう。
大介とはずっと友達でいたい。
二日後、陽向は大介を放課後の教室に呼び出した。
「あのね、大介…」
ダメだ…泣きそう。
陽向は涙を堪えながら大介の顔を見た。
「大介の気持ち、すごく嬉しかった。でも、付き合えない。ごめん…」
そこまで言うと、我慢していた涙が溢れ出て来た。
「ごめんねっ…大介…」
「泣きてーのはこっちだっつーの」
大介は笑いながら陽向の顔を覗き込んだ。
もう、今までみたいに話せなくなっちゃうのかな。
嫌われたくないよ…。
「嫌いにっ…ならないで…」
「なるわけねーだろ」
泣いて真っ赤になった顔を大介に向ける。
目の前の顔は笑っている。
「大介と…ずっと友達でいたいの…。断ったら気まずくなっちゃうかもって考えたら…悲しくなっちゃって…」
「ならねーよ。俺らはこれからもずーっと友達だからな」
「ありがと…」
陽向が笑うと大介も優しく微笑んだ。


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