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It's
【ラブコメ 官能小説】

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★★-3

どれくらいの時間が経ったのか分からない。
「酒癖悪いのも大概にしろよな」
その声にはっとなり目を開く。
どうやら眠ってしまっていたようだ。
「凍死してーのかよお前は」
「あ…」
声のする方に目をやると、五十嵐がタバコを吸いながら冷ややかな目で陽向を見ていた。
なんで五十嵐が…?
「酔っ払って歩けなくなった?」
状況が飲み込めず、あたふたする。
「…つーか、重いんですけど」
五十嵐に身体を預けてる事に気付く。
「あっ…ご、ごめん」
慌てて身体を起こそうとすると、肩から何かがずり落ちた。
それは、五十嵐のものと思われるジャケットだった。
…何の優しさだ、これは。
明日は雨に違いないと確信する。
「なんで…こんなとこにいんの?」
「こっちが逆に聞きてーわ。なんでこんなとこで寝てんだよ」
何でも何も…。
酔っ払って目を瞑ったら寝てしまっただけだ。
なんとも惨めな事態に落ち込む。
陽向が黙っていると「今日のライブ」と五十嵐が口を開いた。
「俺らのが上だと思った」
憎たらしい口角がキュッと右に上がる。
「は?」
「あれがお前の本気?」
「……」
「ボーカルはただ歌ってりゃいーとでも思ってんの?」
「なに?何が言いたいの?てか五十嵐にそんなこと言われる筋合いないし!」
「抑揚ねーし、ただ歌って周り盛り上げてるだけじゃん」
一瞬で傷付いた。
みんなが楽しんでくれていると信じて疑わなかった。
しかし、五十嵐みたいに思っている人も中にはいるのだろうか。
音楽を楽しみたいと思っているだけでは間違いなのか?
今までやってきたことを全否定されたような気がして、悔しさのあまり涙が溢れてきた。
「なんで…。なんで五十嵐にそんなこと言われなきゃいけないの?!」
陽向はブチ切れて、その場で発狂した。
本当に嫌なやつだ、この男は。
「ほんと…最低…」
陽向は泣きながら「帰る…」と言って立ち上がろうとした。
が、変な大勢で寝てしまっていたのと、酔いも手伝って上手く立ち上がれず倒れそうになる。
「またお前は…。そんなんで帰れねーだろ」
五十嵐に支えられる。
立っているのも困難な程足が痺れている。
陽向は五十嵐に身体を預けながら泣きじゃくった。
悔しくて涙が止まらない。
五十嵐の目の前で泣いている自分が惨めで仕方ない。
酔っているせいで涙腺が緩くなり、次々と涙が出てくる。
「…悪かった。言い過ぎた」
五十嵐はそう言うと陽向を抱き締めて、優しく背中をさすった。
繊細な手つきに驚くと同時に、男に抱き締められ、久しぶりの感覚に身体が熱くなっていく。
陽向に彼氏がいたのは高校の時だ。
それ以来、誰とも付き合っていなかった。
まだ慣れない感覚に、身体中が敏感になる。
背中をさすっていた手が、髪に触れ、優しく頭を撫でられる。
「泣き止めよ」
「…っ無理」
五十嵐はしばらく陽向を優しく包んでいた。
暖かさと、心地良さで気付いたら涙は乾いていた。
人に抱き締められるのって、こんなにあったかかったっけ…とまで思ってしまう。
「ま、でも俺はお前の歌好きだけどね」
「へ?」
「なんつーか…お前に合ってる気がする。チビなくせに、ステージではすっげーデカく見えたんだよね」
「……」
「また聴きたいって初めて思った」
いつもバカにしかされないので、突然褒められると調子が狂う。
陽向は何も答えられなかった。
何て答えれば良いのか分からなかったから…。
陽向が落ち着き始めた頃、五十嵐に身体を引き離された。
親指で涙を拭われる。
目を見ると、唇に触れたあの時の感情がフラッシュバックした。
自分の鼓動が目の前にいるこの意地悪な男に聞こえてしまうんじゃないかと思うくらい、早鐘を打つ。
「そんな目で見んな。…耐えらんなくなる」
五十嵐はバツの悪そうな笑みを浮かべ、陽向にキスをした。
陽向は忘れもしなかった。
あの日のキスを。
もう一度して欲しい。
そう思っていたが、気付かないフリをしていた。
しかし身体は正直だ。
考える間もなく理性が吹っ飛ぶ。
突然、激しいキスに変わる。
唇を割って舌が入り込んできた。
「んっ…ぁ…」
五十嵐はキスが上手い。
少し空いた隙間から自然と声が漏れてしまう。
脳が蕩けそうになる。
「声可愛い。そそる…」
五十嵐は唇を離さないままフッと笑って言った。
甘くなり始めた声に、鳥肌が立つ。
陽向は五十嵐のジャケットの裾をギュッと握った。
その手を優しく握られる。
頭が働かなくなってしまいそうだ。
おかしくなる…。
そう思った時、五十嵐の右手が胸に触れた。
「いやっ!ちょ…やだっ!」
先程どこかへ行ってしまった理性が舞い戻ってくる。
「やめてっ!…ばか!」
陽向は身を捩らせて五十嵐から身体を離した。
「なんで…こんなことすんの…」
「こんなことって?」
「抱き締めたり、キスしたり…。あたしのことなんとも思ってないくせに」
きっとこいつには彼女がいるに違いない。
色んな女とこういうことばかりしているんだ…。
五十嵐は少し間を置いた後、笑った。
「冗談だよ、ジョーダン」
その言葉に心臓が抉られる。
…好きって言って欲しかった。
ものすごく傷付いた。
「あんたって…本当最低。あんたなんかに引っかかるほど、あたしは軽い女じゃない!」
陽向は「大っ嫌い!」と言い残してその場を去った。

家の近くの公園まで辿り着くと、大粒の涙が零れ落ちた。
フラれたような、例えようのない悲しみに襲われた。
その時確信した。
あたしは、五十嵐湊が好きだ…。


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